2006年6月20日火曜日

シロクマ通り

 うち棄てられた路地裏は迷路であり、家々の窓から零れるまるくて暖かい灯は、堆積する闇を他所へ乱暴に追いやる。
 路地裏の隅の暗がりから子供たちは、か細く弱弱しい手を伸ばし、僕らに救いを求める。しかし僕らは歩みを止めない。彼女は僕の手を引く傍ら白い傘をゆったりと上下させ、ベージュのコートの裾を翻しながら路地裏を行く。
「ここでは、彼女がいちばんえらいのよ」
 昔、誰かが僕の耳に囁いたのを思い出した。

 彼女はやがて一人の子供の前に立つ。子供は怯え顔を伏せていた。なんとなく、睫毛が長いなと思う。
「行きましょう」
 残酷な顔で微笑む彼女の顔を子供はじいと見ている。彼女は子供に手を差し伸べ、もう一度「行きましょう」と言う。
 子供は彼女の言葉を受け入れ、彼女の妹になる。
 左手に白い傘を持ち右手で妹の手を引き路地裏を行く。彼女が、ここではいちばんえらい。
 石畳を踏むヒールの音が左右の壁を駆け昇る。音は雲のない夜空に拡散し、彼女の新たな妹の誕生を路地裏中に知らせる。
 夜が明けたら、幸せな姉妹は僕と子供たちを残してカフェテリアへパンケーキを食べに行くのだ。







 MSGP2006一回戦【シロクマ通り】に出したもの。
 まけたー。わー。

 いろいろな人から、「タイトルから遠い」と突っ込まれました。うん、遠いと思う。遠くしたもの。
 三回戦以降の縛り対決をやってみたかったのですががが。来年またがんばるさー。