2007年12月27日木曜日

盲目少女

「盲目少女」

 盲目少女は七歳のときに光を失った。菌が眼球をすっかり虫食いにしてしまったのだ。痛みはなかった。
 涙と思っていたものは融けたガラス体で、ねえおかあさん、と母親の方を向き直ったとき母親はすぐには助けてくれなかった。理由は母親の息を呑む音で判ってしまった。哀しかった。そのときにはもう何も視えなかったけれど、窪んだ目の穴に残った水溜りみたいなガラス体に夕陽が反射して、きらきらと、ちくちくと、とおい昔に両親に連れられて行った岩場の浅瀬をぼんやりと思い出すのだった。
 岩場の浅瀬。バケツいっぱいにあさりとざりがにと綺麗な石を拾った。波の音なんて少しもしなくて、びょおうびょおうと風が吹くばかりで、見上げた父の顔は夕陽の陰影に隠れていたけれど微笑んでいたのは確かだった。
 ――、おいで!
 母親に呼ばれて盲目少女は浅瀬に足を入れ脛まで濡らす。水はひいんやりと冷たかったがすぐに肌に馴染み、ビーチサンダルは水の抵抗で重く、磯の香りは一層強くなる。ようやく辿り着き母が見せてくれたのは水平線ぎりぎりを横切るタンカー。いつまでも横切り続けていた――。
 鍋が泡を吹く。この日はあさりの味噌汁だった。ねえおかあさん。おかあさん。いつまでも、ずっと、盲目少女は母親を呼んでいたような気がする。



 あーうー。何から書いたらいいんだか。とりあえずメモメモ。

 ・タカスギさんの第一回コトリの宮殿に出品し損ねる。
 後は推敲するだけだったのにクリスマスでどたばたしてたらすっかり忘れてしまったのです。

 ・吸血鬼の話
 800字掌編は今野ベストの+αに引っ掛かってたらしい。うん。分母を考えれば一生分の運を使い果たした気分。

 ・クリスマス
 気が付いたら終わってた。クリスマスケーキは無事全部売れました!ばんじゃい。
��ちっ、残ってたらロスでタダ食い出来たのになッ)

 ・来月ひょうた君と女王様が一緒に風呂に行くとか行かないとか。
 はあはあしてきた。反省はしてない。


 ではでは皆様良いお年を。

2007年12月16日日曜日

仮面

「仮面」

 今朝学校へ行くと僕以外のみんなが面をつけていた。ネコの面の子が「おはよう片山くん」と言う。何故面を、と問うには自然すぎる振る舞いで。
 チャイムが鳴り先生が現れた。イヌの面。ウサギの面の女の子が続く。転校生だ。
 初山理恵子です。
 ぺこりと頭を下げ、顔を上げたとき初山理恵子と僕は目が合った。面の奥にある真っ黒な目がじいっと僕の顔を捉え、思わず息を呑む。耐え切れなくなり目を背けた。
 ある時、初山理恵子と一緒に兎小屋の掃除をすることになった。転校以来初めて話をする機会だ。そこで初山理恵子は夢の話をした。自分はたくさんの仮面の上を歩いていて出会う人は誰もが仮面を被っているのだという。変な話だよね、と初山理恵子は照れ隠しに僕に背を向け、トラの面を被った兎たちを隣の柵へと移していく。何だよそれ。僕は初山理恵子の後ろに立ち、初山理恵子の面を剥ぎ取った。わっ、と泣き出す面の下はウサギの面。手にした面を僕は被る。すっかり初山理恵子になった僕はトラの面を初山理恵子に被せ、兎小屋に閉じ込めた。
 翌日先生が、片山はご両親の都合で急遽引越した、と告げた。
 りえちゃん何でかしってる? 知らなぁい。
 幸い教室から兎小屋は見えない。




 心臓タイトル競作「仮面」、○:3、△:1、×:1でした。ごち。
 今回は鳴かず飛ばずか、と(若干)しょぼくれてたら最後のほうに正選が立て続いてびっくり。


 ところで巷が800字吸血鬼掌篇とか諸々で盛り上がっている模様。かく言う僕自身も東さんのベスト50に白縫名義で出したものが入ってて驚き。あんなものが選ばれちゃっていいのかしらん、あまつ朗読会で読まれたりなんかしちゃったらキャーキャー////なんてこと考えたすぐ直後に、はぁ、とため息。アホくさ。
 というわけで朗読会に行かれる方は楽しんでらっしゃいませ。おじさんはパン屋で格闘してます。クリスマス前のパン屋は戦場なのです。fucking christmasが合言葉です。いや本当に。あのデカいデコレーションケーキには独り身の人間の恨み辛み妬み憎しみがぎっちり詰まっているのです。