「死ではなかった」
彼女は(おやすみなさい)と言って、すうっと眠りについたきり目を覚まさない。今日も眠ったままだ。この事は誰にも知られてはならない。彼女の両親にさえもだ。
「お正月、遊びに来てね」
電話越しの義母に、はい必ず、と嘘をつく。
夜半、ほとんど聞こえない寝息を立てる彼女を抱き抱え、車に乗せる。助手席に座らせちゃんとシートベルトも締める。僕らは無人の住宅街を時速80kmで突っ走る。けれど僕らはどこにも行けないまま帰ってきてしまう。本当は宇宙船の救命ポッドに閉じ込められたまま火星の衛星になってしまいたいのにと思っている。
薬を渡した時、彼女はそれがただの睡眠薬ではないことを知っていた。ぴかぴかの赤白のカプセルを摘んでしげしげと眺め、
��飲んでもいいの?)
と目を輝かせ、それが繊細な硝子細工であるかのように手のひらに乗せた。
「水は?」
��いらない)
そして彼女は手のひらを口に当てて天を仰いだ。羽が生えたように見えた。
それから薬が効き出すまでの一時間、僕らは冷たい窓辺の下で並んで膝を抱えた。そしていつか世界からあらゆる乱暴で野蛮なものたちが一つの例外もなく死に絶えて本当に美しいものだけが残る未来について語り合ったのだ。
��**
タイトル競作 ○:3 △:1 ×:0
・今回一番びっくりだったのははやかつ票
・いつもながらのロクでもなさ。なぜ私はこのようなものを書くのでしょう?(訊くな)
・というわけで参加してました。ふふふん。
・片やこちらもじつは17がそうじゃないかと踏んでいたのだけども選評で触れていて途端にわからなくなったという。そうか、ふりだしに戻ればよかったのか。
そんなこんなで気付けば一月半も音沙汰無しでした。
その間何をやっていたかというと、前回のエントリより引き続きフリゲ三昧で一通り飽きるまでやってみたり、原稿の校正をやってたり、それなりに忙しくしておりましたことよ。
取り急ぎにつき。