2008年2月26日火曜日

むかしむかし

「むかしむかし」

 千年前の平安時代に、安河内彦麻呂の中世ラブコメ「弥生時代の弥生ちゃん」が大流行する。そんな平和な時代もあったものだと思い返すは戦国時代の安河内彦麻呂の子孫である。




 お題が溜まってたのでまとめて更新。27~34まで。

夜の女王

「夜の女王」

 夜の女王がやってくる。下僕を引き連れ大通りを行く。すれ違う者は漏れなく低頭平身で女王を迎え、月さえも例外ではない。
 その御姿故に女王の威光は街の隅々まで行き渡り、その威光故に女王は孤独である。

人形のちぎれた首

「人形のちぎれた首」

 我こそは、と名乗りを上げる首があまりに多かったので急遽オーディションが開かれる。審査員は首を失った人形の胴体と、持ち主の女の子。
「73番の方どうぞー」
 柱の影から首がころころと転がってきて、胴体と女の子の前で器用に立つ。長い旅をしてきたのだろう、元は綺麗に整っていたであろう鼻はすっかり摺れて丸くなっていた。綺麗だった金髪も埃と泥で汚れてしまっている。そして女の子が口を開くよりも先に「ああ! 久しぶりねマコちゃん、不幸な事故で首が取れてしまったけどやっと帰ってこれたわ。さ、早く私たちを一つにしてよ」早口でまくし立てる。女の子はコホンと咳払いをし、赤縁の眼鏡を掛けなおす。「早速ですが、わたしたちが初めて会ったときのエピソードを話してください」女の子は紺のスーツをぴっちりと着込み、脚は床に対してぴったり70度傾いている。
「そうね、初めて会ったときの話ね。今でもよく憶えてるわ、あれはマコちゃんがまだぶうぶうの赤ちゃんだった頃ね。私はマコちゃんのお父さんがマコちゃんにプレゼントにって買われたのよ。でもマコちゃんったらやんちゃな子でね、マコちゃんは私の首を掴んだかと思ったらぶんぶん振り回して、それがベッドの縁に当たってバキッて折れちゃったのね。お父さんとお母さんびっくりしてたっけね。結局そのときはお母さんが縫って合わせてくれたのだけど」
 懐かしいなあ、と首が遠い目をする。
 女の子と胴体は肩を寄せ合い、こそこそと筆談する。胴体は喋れはしないが視覚はあるのだ。
「ありがとうございました。結果はまた後ほどお伝えしますので、外でお待ち下さい」
 そして首は来たときと同じようにころころと転がっていく。
「74番の方どうぞー」


ポーカーフェイス

「ポーカーフェイス」

 男のポーカーフェイスが気に食わなくて、女は男の寝込みを狙う。ぐうぐういびきを掻く男の鼻にフックよろしく人差し指と中指を突っ込み一気に引く。ぱかっと顔がはがれ、下に覗いた新しい顔はまだあどけなさを残す少年の寝顔。あんまり可愛いものなので女はうっとりしながらしっとり濡れた唇にキスをしてしまう。

キリンの滑り台のある公園

「キリンの滑り台のある公園」

 初々しい少年少女の真夜中の告白を、ぐっと息を潜めて聞き耳立てる影がある。
 だが一人ではない。
 ペンキの剥げたブランコの上に十三人、壊れたシーソーには両端に九人ずつ、キリンの滑り台には梯子から斜面までぎっしり二十人ちょうど。他にも水のみ場には六人、植え込みに至っては八十人をゆうに越すだろう。
 ずっと前から好きでした、付き合ってください!


























 そよ風に吹かれた花のように少女が小さく頷いた。
 同時に耳を劈くばかりのクラッカーの音。指笛。大喝采! 

石になった少女

「石になった少女」

 全方位的な空に向けた祈りは生きとし生ける者ら全てのための祈りである。
 少女は指を絡めて合掌し、その手を鼻先にやり目を伏せる。その姿は村人の心を打ち少女は信仰の対象となる。祭壇が作られ、極彩色に彩られ、花が咲き乱れ、そして村が絶える。荒廃した景色の中にあっても少女は未だに清らかであった。祈りは絶えない。
 生きとし生ける者らに幸福を――。
 このようにして少女は伝説になる。

見知らぬ隣人

「見知らぬ隣人」

 真夜中、眩い光を放ちながらUFOがやってくる。UFOはアパート前で彼を下ろし去っていく。彼が帰宅したのだ。
 築何十年のボロアパートだから、階段や廊下を歩く音がよく響く。かつんつん、かつんつん、と不思議な足音を立てて彼は僕の部屋の前を横切り、34.5号室に入っていく。バタンと音がしたきり静まり返る。
 それから僕は壁をこんここんと三度叩く。同じくこんここんと返ってくる。窓を開けてみると35号室の男も顔を出しており、さっぱりわかんねえなあ、わかんないですねえ34.5号室。手を伸ばせば互いの手が触れる距離だけど、その間には異次元の34.5号室があって、そこで宇宙人の彼は背広を脱ぎシャツにパンツという居出たちでビール片手に柿の種を齧りスポーツニュースを見ているのだろう。試合の結果に一喜一憂しながら。もっとも35号室の男は、毎晩女の子を取っ換え引っ換えでよろしくやってんだろうよ、と下卑た笑いをする。異次元なら音漏れもへったくれもねえからなあ。
 35号室の男とはかれこれもう五年の付き合いだけど、未だにそういうところは気に入らない。

絵の中の風景

「絵の中の風景」

 彼女の書く絵は牢獄だ。筆に罪を乗せてキャンバスに塗りたくって牢獄に閉じ込めるのだ。
 あれを見てみるといい。あの小丘の街の住人は未来を放棄し過去の栄光に安住することを選んだ者たちだ。彼女によって牢獄に閉じ込められたことにすら気付かないくらい腐った奴らだよ。
 これはどうだろう。無邪気を装い罪無き小さな者らを殺めた少女だ。少女の後ろにある黒山は今まで彼女が殺してきた蟻の屍だよ、可哀想に土にも還れないのだ。
 なに? 彼女に会わせろ、と。
 ああそうだったね。君は絵の買い付けに来たのだものね。ああ、彼女はこっちだ。今は作業中だから、場合によっては待ってもらうことになるが構わないか? そうか、それは助かる。……運がよかったね、入っていいってさ。ああそうそう、彼女に直接話しかけることは遠慮してくれたまえ。話は全て私が介するからね。
 ――ああフラン、いいか落ち着くんだ。奴らは、絶対に、中から出てきたりしないし、ましてや君を引きずり込んだりしない。君はもう奴らとは違うんだ、君が全ての絵を描き切ったら君は完全に自由になれるんだ。記憶も原罪でさえも君を縛ることなんてできなくなるんだ。鳥になる。いつか話してくれたろう。え? なに構うことはないさ、僕を忘れてしまうことは怖れなくていいんだよ。
 待たせたね。いくらで買ってくれるんだい? 言い値で構わないってさ

2008年2月13日水曜日

勿忘草

「勿忘草」

 コンコン、という音で目が醒めた。スズメがくちばしで窓を叩いていた。
 窓を叩きながらスズメが、小さなごま粒みたいな眼でこちらを真剣に見つめていたものだから、どうしたのだろうと窓を開けてやる。するとスズメは咥えていた小さな青い花を窓縁に置いて、そのまま飛んでいってしまった。何の花だかよくわからないけど、せっかく貰ったものなので活けて飾っておいた。

 この話をすると恋人は「愛されてるのね」とくすくす笑う。何だかよくわからないけど笑ってくれたのだから、まあいいかと思ってしまう。




 お題26。次は「絵の中の風景」
 勿忘草の別名がforget-me-not(別名でもない?)で、「私を忘れないでください」という意義がどうにも好きになれない。悲恋というよりもエゴイスティックなイメージの方が強いせい。


 この頃は、はあはあしてるだけだったはずの超短編温泉部@月島に行ったりskypeなんか始めちゃったり朗読会にも出させてもらったりと何だかんだで色濃かった気がするぞ。
 とりあえず月島は、ひょーた君に尻を撫でられ女王様が自分の乳を揉んでたのが印象的でした。