「銀天街の神様」
夕方から夜にかけては銀天街が最も人で溢れ返る時間帯だ。人の数の二倍の足が東西銀緯路と南北銀経路を行く計算だ。歩きづらい。
あ、猫さんだあ。
本当だねえ。
こら人間、手を伸ばすな体を抱くなひげを引っ張るな。痛いだろう。
人間の腕を逃れて路地に篭るとやっと安心して毛繕いができる。行き交う人の足を眺めながら、そういえば今宵は新月かと思い出した矢先に背後より、
「こんばんは」
「よお小僧」
裸足の小僧がにこにこと立っていた。小僧は穴の空いた布を頭から被り、足の爪は黒く汚れている。しかしこれでも神なのだ。
小僧は私の隣に膝を抱えて座る。往来を人の足が行く。大きな足に小さな足、愉快な足取りに哀愁の足取り、様々だ。
「ここからは民の生活がよく見える」
「そうだな」
空を見遣ると銀天街を覆う紗に星が透け始めていた。遠くでドン、ドン、と太鼓を鳴らす音がする。
儀式が始まる。紗に透けた星星は中央の銀の池に身を宿し、小僧は網で星を掬って人間に配るのだ。その星には交通安全、学業成就の効があるという。
「行ってくるよ」
「ああ」
小僧が路地の奥に消える。ドン、ドン、と太鼓が鳴る。往来を人の足が行く。一様に左から右へと流れてゆく。
500文字の心臓タイトル競作「銀天街の神様」○:3
ひょーた君から「これものすごい好き」を頂きましたよ。わーい。
今回は自分でもびっくりするくらいタイトルに素直に書けた気がする。
銀天街が商店街の名前であることは知らなかったのだけども、銀天街という名前がそこはかとなく商店街っぽい感じはしていた。当初のイメージは、半球型ドーム状の商店街。
この形を出すために、x軸y軸として東西銀緯路と南北銀経路の名前を出し、z軸は「視点」の低さと銀天街を覆う紗の描写で作ってみた(つもり)。
それを舞台の背景として書いてみたかったのは、「神様って別に特別偉いわけじゃないのよ」ということ。お硬く言うと、神の権威の喪失。神と人間の間のヒエラルキーを失くすためには、人間が神を高みから引き摺り下ろすことの他にたぶんもう一つ方法があって、この二者にもう一人加えてじゃんけんみたいな三つ巴の関係を作れば神の絶対的権威って薄れるんじゃないかと思った。△ですよ△。今回はその第三の視点として「猫」を用いてみた。何故猫と言われれば視点が地表に近いこととなんとなくなのだけども、「人間>猫」「猫>神」という図を自分がなんとなくイメージしやすかったからなのかも。
ってなことをゆるゆる考えながらまったりのっぺり書きましたことよ。
選評を見ていると「猫=神」という見方をする意見があって、たしかにそう解釈する余地が見えたのでそこだけは加筆訂正したですよ。