2011年6月12日日曜日

スイーツ・プリーズ

「スイーツ・プリーズ」

「お菓子が食べたい」
 病気のために満足にものも食べることを許されない君の願いを、どうして無碍にできるものか。どうせ死ぬなら最後は好きなことを好きなように好きなだけやってみればいい。
 細い足にぶかぶかのスニーカーを履かせ、夜勤の看護師たちの目を盗んで外へ出る。

 夜行バスに乗って辿り着いたのは海辺の知らない街。白亜の壁が海岸沿いに並ぶ町並みはまるで異国のようだった。
 通りを歩いて目に付いた洋菓子店に入ってはショーケースに並んだ宝石みたいなお菓子を右から左まで全部買い占める。デパートなんてすごく大変だった。
 買ったお菓子は全てホテルに運んだ。テーブルやベッドに並べ、バスタブにも並べ、それでも場所が足りないから床に並べ、しまいには足の踏み場もなくなった。
 すっかり日が暮れる頃には君が満足できるだけの量が集まったらしい。頬に手を当て「どれから食べよう」なんてうっとりしている。好きなだけ食べるといい。ショートケーキ、シュークリーム、羊羹、板チョコ、タルトにマカロン。
 君は恐る恐るケーキのイチゴを口に運んだ。じっくり味わう。咀嚼されたイチゴが細い喉を下る様子がよく見えた。プラスチックのフォークをスポンジに刺し、口に運ぶ。今にも泣きだしそうな顔で味わっている。次の一口へ。やがて君はフォークを投げ出し手づかみでお菓子を頬張るようになる。胸焼けを起こして戻しても、君は手を止めない。
 僕は病院に電話をする。携帯電話を折り畳んでしまったとき、君はお菓子の海の真ん中で背中を丸めていた。

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632文字につき制限オーバー。

昨日は第12回文学フリマ。初めて行ったときはまだ第3回とかだったような気がするから、ずいぶん時間が流れたもんだなぁとしみじみ。
超短編マッチ箱の最新作や、幽明くんや若千さんのところの新刊が主な戦利品。
夜は夜で素敵な皆様にはげまされましたことよ。ちくしょう。