2018年11月21日水曜日

砂の城

 地球の自転と同じ速さで駆ける列車の窓から見る景色は、文字通り時間が止まっている。夕暮れ時に出発し、日が暮れる寸前で最高速に達してからはだいぶながい時間が経った気がするが、景色は何も変わらない。進行方向に赤黒い太陽を追いかけ、私から見えるその右側を端のない水平線が囲んでいる。凪いだ砂浜に城が建っている。見上げるほど大きいのにまったく景色が変わらないのは、狂った遠近感のせいなのか、呆けた時間感覚のせいなのか。光の当たる面は赤銅色に染まり、影は果てしなく伸びている。
 夕日に照らされたテラスに二人のシルエットが現れる。王子と姫が手を取り合い影を重ね合う。そのまま婚礼の儀が始まり、尖塔の陰から見え隠れする鐘が揺れる。豆粒のような民衆が城の足元で波を起こしている。それはまるで遠い世界の出来事のよう。しかし黒い波は収まるどころかむしろ次第に大きくなり、城にその身を叩きつけるようになる。それからはあっという間だった。城は砂埃を立てて崩壊し、重たい夕日がそう見せたのか、どろりと赤いペンキのような血の海が砂山を凝固させた。
 間もなく目的地に――と車内アナウンス。そのスピーカーが切れて、ようやく私は我に返った。

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500文字の心臓の「MSGP2005 1/4 Finals 3rd Match」のタイトルと制約から。
��「光」「スピーカー」「赤いペンキ」という言葉を使うこと)
仕事中に仕事をサボってこの時代の作品を見返してみると、輝いていたなと思う。
はじめて超短編に触れたのはもう10年以上も前で、新奇すぎる体験に戸惑いつつも「これが面白いという人がいるならその面白さを追ってみよう」とわからないながらに頑張ってみたら、ついぞハマってしまった。先日のことのようだけど、10年以上前の話。
最近はもうすっかり覗くこともなくなってしまったけど、まぁきっと、みんな楽しくやっていることだろう。
未だに見知った名前がちらほらあるのは、よく続けられるねえ、と思いつつ安堵の心地もあり。
とてもながい(色々な意味での)挫折の時期もあったけど、時間というのが良くも悪くもあらゆるものを過去にしてくれるおかげで、気力だけは回復しつつある。