2006年11月28日火曜日

三行日記200

スペシャリストの帽子」(ケニー・リンク)を再発見@ブックオフ。悦。
 好き過ぎて持ち歩いているうちに失くしてしまっていたのです。
 短篇の一つ一つが素敵。

2006年11月14日火曜日

三行日記199

 1.電車の座席に座り、頭を垂れて眸を瞑る。
 2.思考が独り立ちしてふらふらとどこかへ向かう。頼り無げな足取り。
 3.観察者たる自分に気付く。思考はまた脳に戻る。異世界の空気をその身の内に蓄えて。

2006年11月9日木曜日

流れる

 極彩色の空中庭園の片隅に一人の少女が捉えられている。裾が血で穢れた純白のドレスと鼠色の足枷。何千年もの間、少女は一度として世界のあらゆる記憶に登場しなかった。もはや自身の生死さえもわからずに。虚ろな瞳が決して色褪せることのない花々を映す。まるで、硝子球。
 かつてこの空中庭園には高貴な人々が住んでおり、彼らは多数の少女奴隷を有していた。彼らは彼女たちに唄を唄わせ、庭園の手入れをさせ、甕を蜂蜜とミルクで満たさせ、また夜の慰めにも利用した。しかしあるとき、少女一人を残して皆消え去ってしまう。
 それから少女は絶えず血を流すようになった。ドレスの裾を赤く染めて円状に広がる血は大理石の排水路に至り、一本の赤い糸として滴り地表をなぞる。だが、それでも、人々は少女の存在にも空中庭園の存在にも気付かない。
 永すぎる年月を経て少女の胎はゆっくりと膨らんでいっていた。
 いつか一匹の毒蜘蛛が赤い糸を辿って空中庭園の少女に至るだろう。胎に入り込みそして児を噛み殺してしまうだろう。運命なのだ。それは数日後なのか、或いは何千年も先なのか、少女にはわからない。唯一、それがいつか訪れることだけこそが揺ぎ無い真実として。




「流れる」
・バイオリンとピアノの音をイメージして

 というわけでトーナメントのお題。見ていたら書きたくなってしまったのです。緑コーナーで参戦しません(何だ)。
 しかしなんでこういうものに仕上がってしまうのか、僕にもわからないのです。病んでるなあ、と半ば呆れ。タイトルとも遠いしなあ。

2006年11月6日月曜日

フラッグ

 、腕の長さのフラッグを垂らしてがりがり歩くアスファルト、階段を上って高台の広場の先っぽで街並みを見下ろし端っこの柵を乗り越え誰も使わない急階段を一段一段フラッグかつんかつん、
「きっと君は辿り着けるさ」
 踏み慣らした靴は土埃で白く汚れて茶色の靴紐は千切れかけていて、
「靴が壊れなかったらよいのだけど」
「踏み鳴らして歩けよ、大地を」
 雑草の中を大地を踏み鳴らしてたんたんたん、ほうらリズムが生まれてきた、弾めよ踊れよ、何もかも、フラッグの先端で刻めよ残せよ、きみの軌跡、
「人気のない道を」
「人気のない道を」
「ぼくらは」
「ぼくらは」
「あるくのさ」
「あるくんだ」
 空を唱和しながら白砂の海岸を、壊れたネオンサインの迷路を、枯葉の森をどこまでも、
「そしてきみはふと立ち止まる」
「それも不意に」
「長い長い坂道の果てだ」
「殆ど岩道で」
「アンダンテのリズムで歩いてきたきみの靴は」
「とうに底抜け」
「それでもきみのフラッグは歩くたびにどんどん立派になっていて」
「金銀ぎらぎらの、きみだけの装飾で」
「きみだけのフラッグだったはずなのに!」
 空に一番近い山のてっぺんにはきみのとまったく同じフラッグがあり、きみは誰かの人生を模倣しているに過ぎなかったのさ、と空と太陽と雲と風と大地と草々のせせら笑い、
「しかしきみはまだ歩けるだろう」
 靴の一声に押されてきみはまた一歩、山を越えて辿り着く未知の世界をフラッグの先端でがりがり歩き、アレグロのリズムで大地をたんたんたん、命が尽きてフラッグを突き立てるそのときまで、



 投下。
 日々バイトで午前様だったり学祭でがきんちょと戯れていたりしていたら、お誕生日おめでとうございますだとか選評だとかをすっかり忘れていたりする。いやん。

 あと、11月30日(木)がお暇な方はこちらがオススメ。生憎ぼくは行けないのだけども、是非とも参加者の感想が聞きたいのです。さあ、何も躊躇うことはないさ、行ってくればいいさ。


2006年11月2日木曜日

夜夜中

 暗い暗い部屋の片隅で私は膝を抱えてまるくなっている。電話。もしもし。
「幸せ?」
 ううん、幸せよ。
 なら、いいんだ。

 息も凍りつく寒空。携帯電話を折りたたみ少年は線路を歩く。枕木、を一つ一つ踏みしめて。
 プオオオン……
 ぎらぎらの光、を携え後ろから貨物列車。どんどん濃くなる影、に堪らなくなり少年は雄叫びをあげる。

 ふくろうは血の滴る眼球を咥えて空を飛んでいた。疲れると貨物列車の背に留まるが、やがて羽ばたく。月影に羽根。

 百合の花を模した地下二百メートルのホールの真ん中は小高い台で、グランドピアノが置いてある。
 観客は色とりどりの羽根つき仮面をつけていた。少女はおじぎする。真っ黒な椅子に真っ白なドレスのお尻を乗せ、ピンクの小さな爪を大きすぎる白黒の鍵盤の上で躍らせる。ぽろん、ぽろん。病的なスポットライトの中の少女を、仮面たちが煙草を片手に観察する。観察する。観察する。蹂躙したくなる。

 私は夢を見た。永い永い夜の夢。
 ピンクのカーディガンを羽織り渚のアデリーヌを弾いた。しゃくりをあげて、ぽろぽろ泣きながら。うるさくたってかまうもんか。かまうもんか。月影、にぽろん、ぽろん。




 タイトル競作『夜夜中』○×1 どもでした。





 書かれるべきことよりも書きたいことを書いてしまうようになったのはいつからなのだか。成長した子供が人形に人格を与えなくなるのと同じことなのかしらん。それは淋しい話じゃあありませんか。