2010年8月15日日曜日

ペパーミント症候群

「ペパーミント症候群」

 瓶の中のホムンクルスにペパーミントの種が根付いたので、その子だけ違った特性を備えるようになった。根が彼女の背を割っている。芽吹いたばかりの双葉は青々しく、まるで翼が生えたみたいだった。ホムンクルスは喋らない。意思表示をしない。混沌とした意識の海を漂っている。
 最初の変化は、自身の容姿に対する関心の発現だった。髪をいじる、伸びた爪を噛み切る、ガラスの内壁に移った自身を観察する。これらの現象から上記の仮説を立て、瓶の中にビーズを数粒投入してみた。彼女は培養液の中を泳ぎ下り、拳大のビーズを持ち上げる。翌日にはビーズに髪を通し、頭頂部でまとめていた。
 今度は苺味の飴の破片を投入してみた。しかし味覚はまだ発達していないようで、明りに透かすに留まった。
 次に衣服を作製し投入する。彼女はそれが何なのかわからないようだった。瓶の前に子役モデルの写真を立てる。その日の内に彼女は衣服を着ることを学習した。
 私はこれらの発見事実に興奮を隠せずにいた。しかし、間もなく彼女は恋煩いを発症する。瓶に手のひらを押し当て私を見上げる。
 月夜の晩に彼女は亡くなる。瓶の蓋を開けると、ミントの香りがきつく漂った。

��**

タイトル競作。○:4、△:0、×:0

やろうとした内容に比して練り込みが圧倒的に足りていないので、いつか(……)書き直したい。

個人的な印象として、「ペパーミント」には「ミント」とか「薄荷」といった類似した単語にはない独特のニュアンスがある気がする。少女性というか、メルヘンチックな感じというか、そんなニュアンス。それがどういう文脈に由来するものなのかわからないけれども、そういうニュアンスはどうやら自分ひとりだけのものでもないらしい。
そんなわけで常々「ペパーミント」という語は不思議な単語だなあと思っておったのです。はい。
今回の競作でも、そういうニュアンスの作品が結構多かったので、ああやっぱりと思う反面ますます不思議に思ったりもしたのでした。そらんじは思いっきり釣れたしー(笑)。

というわけで取り急ぎ。