2008年9月30日火曜日

クジラと超彗星リンダ

「クジラと超彗星リンダ」

 夏休みの課題のために図書館へ行った。五十年前にこの町で発見されたクジラについて調べるのだ。
 当時、浜に打ち上げられたクジラは新種ではないかと噂されたらしい。しかし既存種であることがわかって町民をひどくがっかりさせたという。結局クジラは海に帰る前に死んだ。墓は岬に立てられ、以来町の小さな観光名所になった。先週、父さんと岬の墓へ行ったときにその話を聞いてとても腹が立った。何がって、全部。
 埃の舞う一室で古い新聞を調べ、僕はとうとう発見する。昭和三十三年八月某日、Y県P村に新種鯨、打ち上げられる。僕はノートに内容を写した。
 それから前後の記事を調べていて、僕はとある記事を見つける。超彗星リンダ、と題された記事は新聞の隅で肩身狭そうに縮こまっていた。超彗星リンダ――その響きがいやに気に入った。只者ではない超彗星リンダは、夜空に野太い筆で力強く光る白墨を引くのだろうか。それは隕石みたいだ。
 超彗星リンダは同年九月中頃に降るだろうとA氏は予測する、とその記事は締め括っていた。クジラの墓の上空に超彗星リンダは訪れたのか。だったらいいなあ。
 切り抜きのファイルを閉じると埃が舞った。夕陽に透けてきらきら光る。





 超彗星リンダの一本釣り。
 これをいさや関数に放り込むとこんなものが出力されるわけです。

2008年9月20日土曜日

未来百怪のオフ

 オフの模様、抜粋

・東京駅八重洲中央口で、マンジュ&ひょうたんに服を脱がされる
・ふらくんにも脱がされる
・秋山くんにも脱がされる
・ビバ☆羞恥プレイ
・宴会の席でも脱がされる
・byマンジュ・ひょうたん・ふらくん・秋山くん・脳内亭さん、等(一部敬称略)
・「いやっ! やめてっ!」
・結局50回くらい脱がされた気がする
 
 といういつも通りの痴態酷い話の他にも色々。

・添田さんから、岩里藁人さんが作ってくださった「傘の墓場」の特製しおりをいただく。ありがとうございます、大事にします。ってか驚いたー。
・生まれて二度目のサイン書き。なんでみんなあんなに上手く書けるんだろう。
・ありがたいお話も拝聴する。
・カシスオレンジうめぇw


 取り急ぎにつき以上。

2008年9月17日水曜日

黄昏の迷子

「黄昏の迷子」

 けん、けん、ぱ。と跳ねる子どもたちを見ている。公園の時計は六時を示し、空は茜色に染まりつつあった。のどかなチャイム、子どもたちの帰宅を促す放送、ドヴォルザーク。子どもたちは砂地に描いた円を目印に、けん、けん、ぱ、を繰り返す。長く引き伸ばされた影が色濃い。
 高学年の子は低学年の子を助ける。低学年の子は高学年の子を慕い、中学年の子は拗ねている。ブランコを漕ぐ。シーソーを揺らす。ジャングルジムに登る。けん、けん、ぱ、を見下ろす、夕焼けを眺める、見とれる。三羽のからすが夕陽を横切る。みんな、笑っている。静かな夕暮れ、夕飯の香り、銭湯の煙突から立ち昇る湯気。
 けん、けん、ぱ。と子どもたちは跳ねる。右足、右足、両足。その度に子どもたちは帰ってくる。それからぐるっと回ってもう一度。低学年の子が列に割り込もうとするのを高学年の子が叱り、中学年の子はジャングルジムのてっぺんでぼんやりとしている。けん、けん、ぱ。子どもたちの声。けん、けん、ぱ。けん、けん、ぱ。けん、けん、ぱ。左足からは、決して、始めてはいけなかったのだ。
 ――ごはんだよぉー。
 子どもたちは一斉に帰ってゆく。けれど私だけは帰れない。





 付け焼刃。

天の瞳

 伸縮怪談投稿分

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「天の瞳」

 ぱっくり割けた空の亀裂から大きな瞳が覗いている。それは真ん丸の瞳で、視点はある一点に定まっていたかと思うとせわしなくきょろきょろ動き、そして数秒に一度瞬く。今や誰も驚かない。当たり前の存在だ。
 彼の興味は黄色いものに向く。配管工事の黄色いメットから夏の向日葵畑まで、黄色いものなら何でも構わないといった風だ。そういうものを見つけたとき、まず虹彩がぎゅっと絞られ、それからじっと目を凝らすように瞳が地表に近付く。ほんの僅かであるけれど。

 カフェテラスで紅茶を飲む。パラソルから顔をずらして空を見上げてみれば、あの瞳がまた何かを探している。これは私個人の感想だけど、あれは子どもの瞳だと思う。好奇心旺盛な子どもの――目が合う。にこりと笑い手を振った。瞳はプイと目を逸らしたけれど、それが気恥ずかしさからくるものだと、何となくわかってしまう。
 しかしそれが原因だったのだろうか。翌日、目が醒めて空を見てみると、彼はいなくなっていた。まっさらな天球に雲の白が鮮やかに映える。



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「天の瞳」

 ぱっくり割けた空の亀裂から大きな瞳が覗いている。それは真ん丸の瞳で、視点はある一点に定まっていたかと思うとせわしなく動き、そして数秒に一度瞬く。
 この異常事態に世間は揺れた。最も世間の支持を得たのは、人間の振る舞いに腹を据えかねた神が世界を監視下に置いた、という説だった。この説を唱えた新興宗教の長はテレビに引っ張りだこだ。しかしそんな状況が三ヶ月も続けば、誰も驚かなくなる。当たり前の存在になりつつあった。
 彼の興味は黄色いものに向く。配管工事の黄色いメットから夏の向日葵畑まで、黄色いものなら何でも構わないといった風だ。そういうものを見つけたとき、まず虹彩がぎゅっと絞られ、それからじっと目を凝らすように瞳が地表に近付く、ほんの僅かであるけれど。そしてその度に、世の中の人はたじろいだものだった。例えて言うならば衝突寸前の隕石。黄色は暗黙のうちに駆逐されたし、ミサイルが発射されるのももはや時間の問題だった。

 カフェテラスで紅茶を飲む。パラソルから顔をずらして空を見上げてみれば、あの瞳がまた何かを探している。これは私個人の感想だけど、あれは子どもの瞳だと思う。好奇心旺盛な子どもの――目が合う。にこりと笑い手を振った。瞳はプイと目を逸らしたけれど、それが気恥ずかしさからくるものだと、何となくわかってしまう。
 しかしそれが原因だったのだろうか。翌日、目が醒めて空を見てみると、彼はいなくなっていた。まっさらな天球に雲の白が鮮やかに映える。
 後で聞いたことだが、彼がいなくなって残念がる声は意外に多かったという。新興宗教の長はぱったりと見なくなった。



��200字
「天の瞳」

 ぱっくり割けた空の亀裂から大きな瞳が覗いている。それは真ん丸の瞳で、視点は一点に定まっていたかと思うとせわしなく動き、そして数秒に一度瞬く。
 この異常事態に世間は揺れた。最も世間の支持を得たのは、人間の振る舞いに腹を据えかねた神が世界を監視下に置いた、という説だった。この説を唱えた新興宗教の長はテレビに引っ張りだこだ。しかしそんな状況が三ヶ月も続けば、誰も驚かなくなる。当たり前の存在になりつつあった。
「馴れてはなりません! 神は我々の行為を今や、しっかりと、監視していらっしゃるのです!」
 そういう風に言われると、一応気にはなるのが人間なのだろう。犯罪率の低下を示すデータがバラエティ番組のボードに示されるようになる。三ヶ月とはそういう時間だ。
 この三ヶ月の間にわかったのは以下のような事柄だ。まず、瞳の高さは雲よりも遥か上であることだ。レーザー光線を使った実験によると、その高さは大気圏に相当するらしい。しかし瞳が自転の影響を全く受けないことについて、納得の行く説明はない。やはり神なのか? そういった論調は片っ端から科学者が否定するけれど、新興宗教の長は断固として神だと主張する。閑話休題、しかし何よりも重要なのは、彼の興味は黄色いものに向くことだ。配管工事の黄色いメットから夏の向日葵畑まで、黄色いものなら何でも構わないといった風だ。そういうものを見つけたとき、まず虹彩がぎゅっと絞られ、それからじっと目を凝らすように瞳が地表に近付く、ほんの僅かであるけれど。そしてその度に、世の中の人はたじろいだものだった。例えて言うならば衝突寸前の隕石。黄色は暗黙のうちに駆逐されたし、ミサイルが発射されるのももはや時間の問題だった。

 カフェテラスで紅茶を飲む。パラソルから顔をずらして空を見上げてみれば、あの瞳がまた何かを探している。これは私個人の感想だけど、あれは子どもの瞳だと思う。好奇心旺盛な子どもの瞳だ。世の中には面白いものがたくさんあるからねえ――目が合う。にこりと笑い手を振った。瞳はプイと目を逸らしたけれど、それが気恥ずかしさからくるものだと、何となくわかってしまう。
 しかしそれが原因だったのだろうか。翌日、目が醒めて空を見てみると、彼はいなくなっていた。まっさらな天球に雲の白が鮮やかに映える。仕事中や帰り道にも時折目を向けたが、彼はいなかった。残念。息をつくとお向かいさんの家の男の子にばったり会う。その瞳は彼にそっくりだった。こんばんは、と声を掛けると男の子ははにかみ、ママの後ろに隠れてしまう。
 後で聞いたことだが、彼がいなくなって残念がる声は意外に多かったという。






 思い立ったが吉日、忘れる前に発掘。
 怖くも何ともないのはいつものこととして、やっぱり何か違うよなあと。

2008年9月11日木曜日

ジャングルの夜

「ジャングルの夜」

 野良のフタコブラクダと出会う。都会のど真ん中だった。ラクダは四車線の道路を悠然と横切って現れ、僕の前に来ると頭を垂れた。禿げかけた頭に手を添えるとラクダはこそばゆそうに顔を左右に振った。
 僕らは旅に出た。出なければならなかった。僕らは地球をくまなく歩き、ときどき曲芸で日銭を稼ぎ(プラハでサーカスに誘われたけれど断った)、いつしか出会った日のことを懐かしく思えるようになった。

 おまえの背にのってどこまでもゆけたらいいねえ……。

 ある晩、僕らはジャングルで床に着いた。できるだけたくさん火をくべ、僕らは身体を寄せ合い丸くなっていた。こんな夜は早々に眠ってしまうに限る。すっかり嗅ぎ慣れた匂いに包まって空を見遣ると、焚火の白い煙がうっすらと覆っていた。その様子がいつか見た湖の霧に似ていると思ったところで記憶が途切れた。
 ――のっそりと動く気配がある。後足、前足。去る間際、ためらいがちにこちらを振り向いた、気がした。
 待って! と声を上げかけたところで目が醒める。真っ暗だった。火が消えたのだろう。薄らぼんやりとした空がふっと色を取り戻すとそこは都会のど真ん中だった。
 停電だったようだ。喧騒が戻ってくる。





 異種格闘技戦(?) ラクダとジャングルはどこまで共存できるか。

 タイトル競作 ○:3 △:1 ×:1
 正選王に届かない。ここ数回はずっと三番手くらい。な気がする。

 とはいえ砂場票を獲得できた時点で「よし」と思う。06年のトーナメントで負けてからは勝手にライバル認定です(迷惑)。

2008年9月7日日曜日

少女

「少女」

 路傍の石に腰掛けて休んでいると、道の向こうから一人の少女が歩いてくる。少女は胸に茶色のぬいぐるみを抱き、赤のワンピースに赤い靴という出で立ちだ。
 やがて少女が目の前を通る。その可愛らしい装いに似つかわしい精悍な横顔に、私は思わず声を掛ける。
「時にお嬢さん、どちらへ?」
「私は少女を探しています」
 そうして微笑む目尻には疲労の色が浮かんでいる。よくよく見てみれば、痛んだ赤い靴に埃で汚れたスカートのフリル。
「お尋ねしますけど、おじさまはどこに少女がいるかご存知ありませんか?」
「少なくともこの道の先にはいませんよ」そう答えるのが精一杯だった。
「そうですか」
 少女はぬいぐるみをぎゅっと抱締め天を仰いだ。

 ――ひとつだけアドバイスをしましょう。まずは、パパを探しなさい。
 少女はきょとんとした顔をする。しかし、それで良いのだ。






 てんとう虫の隠し刀(?)。使わなかったけども。

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