2012年6月20日水曜日

鈴をつける

『鈴をつける』

 私が顎をツンと突き出すと、彼は蚊の鳴くような音のモーター音を鳴らして、そろり、とアームを伸ばした。その指先で摘んでいるのは、豆粒よりも小さな鈴のついたチョーカー。ちりん、ちりん、とその居場所を彼に語りかける。
「大丈夫、怖くない」
 上手にチョーカーを結べたら、彼にキスしてあげようと思う。それもとびっきりの!

��**

 タイトル競作に出し損ねた何か。
 

 そしてイメージはこんな感じ。
 http://www2.ocn.ne.jp/~sigeya/pupa/e/m_14_sennen.jpg(つくしあきひとさん/風のサナギhttp://www2.ocn.ne.jp/~sigeya/pupa/)
 重厚長大に何が詰まってるって、浪漫ですよ浪漫。
 色々な機械製品が小型化していく今日ですけども、そりゃミクロ化して受けられる恩恵はたくさんありますよ。ありますさ。そういう方向性が意義あるものだということは十二分に認めます。認めますけども、でもやっぱり重厚長大の浪漫もたまらなく良いものです。パワーは美ですよ美。心がときめきます。うっひょー、ってなります。製鉄所とかいいじゃないですか。いいと思いませんか? 思うでしょう? 思ってください。つか、思え。そんなわけでいつか叶ったらいいなぁと思う夢の一つは、スペースシャトルを足元から見上げることです。あんなバカでかい鉄の塊が白煙吹き上げて宇宙まで行くかと思うと、溢れ出る浪漫を胸の内に留めることがとてもできないですね。だからこんなことをだらっだらと書いてるわけですよ。

2012年6月9日土曜日

東京ヒズミランド

 夢も魔法もない世界と聞いて、正直に言えばとても期待していたのだ。望めば叶う世界は甘ったるすぎて、お菓子は食べすぎると胸やけを起こすように、私にはもうおなかいっぱいだったのだ——なーんてことを言うと、女の子たちはせっせと反論を試みる。結局のところ、隣の芝生が青く見えたに過ぎないことを、私は転校一日目にして思い知った。

 人が嘔吐する瞬間って面白い。
 男も女も老いも若きも、みんな一様に目を白黒させ、グッ、だか、ゲッ、だか呻くのだ。そしてびちゃびちゃと白色茶色、色とりどりのゲロを吐く。何が楽しくて悲しいのか知らないけど、みんなげろげろ吐く。「大丈夫ですか」と声を掛けてペットボトルの水を差しだしても、彼らは私に気付かないか遠慮するかで、私が彼らの背中を擦れる機会はほとんどない。道行く人も見て見ぬふり。でも、そんな人々のおなかにも同じようなゲロがぐるぐる渦巻いているのだろうと考えると、私は妙な心地になる。そういう人たちが群れて海を埋め立てたり鉄筋コンクリートでビルを建てたりするのだ。働き蟻よろしく重たい荷物を抱えて右往左往。それであの七色のネオンの海ができるのだから、とても不思議なことだと思う。

��**

タイトル競作。○:3、△:1、×:1

以下、long ver.

 当たり前と言えば当たり前だけど、現実というのは実に容赦ない。道を歩けば車にはねられ、銀行に入れば強盗に襲われ、電車に乗れば痴漢に遭い、あるいはいわれのない罪を被せられ、布団で眠れば突然の心臓発作に襲われる。いたる所に人生という一本道から転落するきっかけがあって、そして当然コンティニューなんてない。一万人の新生児のうち、還暦を迎えられる子は何割くらいいるだろうか。そういう風にドロップアウトしていく命がある一方、それ以上に、工場で大量生産するみたいに新しい命がぽこぽこ生まれてくるから、トータルで見ればトントンかそれ以上なのだ。人の世とは斯くも目まぐるしいものである。
 特に面白いのは人が嘔吐する瞬間だ。
 老若男女問わずみんな一様に目を白黒させ、グッ、だか、ゲッ、だか呻くのだ。そしてびちゃびちゃと白色茶色、色とりどりのゲロを吐く。何が楽しいんだか、あるいは何が悲しいんだか。私にはさっぱりわからないけど、とりあえずみんなげろげろ吐く。駅のホーム、路地裏、居酒屋のトイレ、場所は色々。そんなとき、私は「大丈夫ですか」と声を掛け、ペットボトルの水を差しだす。しかし彼らは私に気付かないか遠慮するかで、私が彼らの背中を擦れる機会はほとんどない。道行く人も見て見ぬふり。生まれたときから、よーいドン、で始まったレースの最中に、ドロップアウトしていく輩に気を掛ける余裕などないのだ。でも、そんな人々のおなかにも同じくゲロがぐるぐる渦巻いているのもまた事実である。明日、げろげろとゲロを吐いているのは、きっとこの道行く人々の中の誰かだ。やはり現実というのは実に容赦ない。
 しかし人ごみを抜けて都庁の展望台を登り、夜景を一望すると、私はいつも苦笑を禁じ得ない。
 どうしてああいう人たちがビル群を建てたり海を埋め立てたりできるのだろう。みんなおなかにゲロを抱えているくせに。働き蟻よろしく重たい荷物を抱えてうろうろする様は迷走しているようにしか見えないのに。
 七色のネオンの海は、幼い頃に歩いたパレードに似ているようで、決定的に違う。
 へーんなトコロ。
 なんとなく左から右へ指を振ってみるけど、光の粉なんかもちろん出てこない。