2009年7月23日木曜日

シンクロ

「シンクロ」

 月に喚ばれたうさぎたちは丘の上に一列に並び、ぴょこんと耳を立てる。しろうさぎ、くろうさぎ、しろうさぎ、くろうさぎ。夜空に迫り出す月と比べてうさぎたちのシルエットは小さい。
 うさぎたちは二兎一組になる。用意した臼と杵で餅をつく。誰がリズムを取るでもなく、左側のしろうさぎが跳ねれば右側のくろうさぎが杵を退け、右側のくろうさぎが跳ねれば左側のしろうさぎが杵を退ける。よいっしょー、よいっしょー、と。人の里からくすねてきた米と、山の奥の奥にある清水を練り合わせて作る餅だ。誰に捧げるでもなく餅をつくのが本分なのでうさぎたちは跳ねる、つく、跳ねる、つく。不穏な雲が月を隠し、明り一つ差さなくなっても、跳ねる、つく。やがて風が吹く。雨が降る。雷鳴轟き山が燃える。ふくろうは狂ったように鳴く。右側のくろうさぎたちは闇に溶けてしまうが、見えなくなるほどに左側のしろうさぎたちのしろが眩く輝く。杵を力強く振り上げ、振り下ろす。彼らの動きに乱れはない。風に飛ばされた枝葉がうさぎたちの体をぶっても、彼らを乱すことはできない。
 夜が明けるとそこには丸い餅が点々と並び、卵と間違え口にしたへびどもが一様に喉を詰まらせ死ぬ。


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というのを初稿で書いたのだけども、内容があんまりな上にシンクロ率が低かったので自粛。結局出せずじまい。あーあ。



選評は中身だけを見てしようと決意する。こっそり。

2009年7月3日金曜日

三つ葉の歯車

「三つ葉の歯車」

 原の真ん中で三つ葉のクローバーが群生し、広さは四方見渡す限りの果てまでそれで埋め尽くされているほどだった。これが世の全てと言うならばそうなのだろうと子は思う。思わざるを得ないほどに三つ葉のクローバーは果てしない。群生地の中心に立つ限りは境界が見えないし、それが見えないうちは境界の有無を経験的に判断することができない。かくして三つ葉は子にとって世の全てである。
 三つ葉どもは隙間なく葉を広げ、薄緑色の原を濃緑色に染め上げる。葉と葉の間にできた隙間を葉が埋め、それでも空いた隙間を別の葉が埋める。モザイクのようにも見える。しかし子はそれをモザイクとは見ない。歯車のようだと思う。懐中時計の蓋を開いたら見えるような、精緻な歯車の組み合わせと見る。そよそよと風にそよぐように見せかけて、それは全体統一的な一つの塊なのである。
 確かめるには三つ葉を捻るのが一番手っ取り早い。
 たやすく千切れてしまう三つ葉の茎をそうっとつまみ、時計回りに捻る。噛み合った三つ葉群が一様に右を向く。しかし東西南北を知らせる手掛りはないので、もしかしたら子が左を向いただけなのやも知れぬ。ならばと反時計周りに三つ葉の茎を捻れば、三つ葉群は一様に左を向くが、やはり子が右を向いただけであるという可能性は否定できない。空のどこを見ても似たような雲が四方に浮かぶ。子はぐるぐると三つ葉の茎を時計回りに捻る、捻る、捻る。三つ葉群は右を向き、右を向き、右を向く(あるいは子が左を向き、左を向き、左を向く)。そうしてぐるりと一周したあとの三つ葉どもは一回り背が伸びており、子は少年になっている。

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seesaaだとどういうキーワードでブログが検索されたかがわかるのだけども、時折不思議なキーワードが履歴として残っている。それを見るのが中々楽しい。
「三つ葉」と「歯車」というキーワードが履歴として残っていて、ピコーンと閃いたので勢いそのままにやってみた次第。


ところで正選王と逆選王が被るのは初めて見た気がするぞ。sugeeeeee
デレ記なら仕方ない。

というわけで今回は参加すらしていなかったのです<私信
じじじじ次回こそはと。


午睡の続き 他

ぼちぼちとここに保管しているもの以外の書き物が溜まってきたのでまとめをば。

「午睡の続き」(パフォー ※I・S名義で)
http://cgi2.nhk.or.jp/paphooo/result/search_result.cgi?action=detail&file_no=4780

「三月九日」(WEB幽 読者投稿怪談4月「ネット」)
http://www.mf-davinci.com/yoo/index.php?option=com_content&task=view&id=1264&Itemid=52

「東の眠らない国」(第7回ビーケーワン怪談大賞)
http://blog.bk1.jp/kaidan/archives/009507.html

「隣合せ」(同上)
http://blog.bk1.jp/kaidan/archives/009538.html