2008年9月17日水曜日

黄昏の迷子

「黄昏の迷子」

 けん、けん、ぱ。と跳ねる子どもたちを見ている。公園の時計は六時を示し、空は茜色に染まりつつあった。のどかなチャイム、子どもたちの帰宅を促す放送、ドヴォルザーク。子どもたちは砂地に描いた円を目印に、けん、けん、ぱ、を繰り返す。長く引き伸ばされた影が色濃い。
 高学年の子は低学年の子を助ける。低学年の子は高学年の子を慕い、中学年の子は拗ねている。ブランコを漕ぐ。シーソーを揺らす。ジャングルジムに登る。けん、けん、ぱ、を見下ろす、夕焼けを眺める、見とれる。三羽のからすが夕陽を横切る。みんな、笑っている。静かな夕暮れ、夕飯の香り、銭湯の煙突から立ち昇る湯気。
 けん、けん、ぱ。と子どもたちは跳ねる。右足、右足、両足。その度に子どもたちは帰ってくる。それからぐるっと回ってもう一度。低学年の子が列に割り込もうとするのを高学年の子が叱り、中学年の子はジャングルジムのてっぺんでぼんやりとしている。けん、けん、ぱ。子どもたちの声。けん、けん、ぱ。けん、けん、ぱ。けん、けん、ぱ。左足からは、決して、始めてはいけなかったのだ。
 ――ごはんだよぉー。
 子どもたちは一斉に帰ってゆく。けれど私だけは帰れない。





 付け焼刃。

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