2008年9月17日水曜日

天の瞳

 伸縮怪談投稿分

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「天の瞳」

 ぱっくり割けた空の亀裂から大きな瞳が覗いている。それは真ん丸の瞳で、視点はある一点に定まっていたかと思うとせわしなくきょろきょろ動き、そして数秒に一度瞬く。今や誰も驚かない。当たり前の存在だ。
 彼の興味は黄色いものに向く。配管工事の黄色いメットから夏の向日葵畑まで、黄色いものなら何でも構わないといった風だ。そういうものを見つけたとき、まず虹彩がぎゅっと絞られ、それからじっと目を凝らすように瞳が地表に近付く。ほんの僅かであるけれど。

 カフェテラスで紅茶を飲む。パラソルから顔をずらして空を見上げてみれば、あの瞳がまた何かを探している。これは私個人の感想だけど、あれは子どもの瞳だと思う。好奇心旺盛な子どもの――目が合う。にこりと笑い手を振った。瞳はプイと目を逸らしたけれど、それが気恥ずかしさからくるものだと、何となくわかってしまう。
 しかしそれが原因だったのだろうか。翌日、目が醒めて空を見てみると、彼はいなくなっていた。まっさらな天球に雲の白が鮮やかに映える。



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「天の瞳」

 ぱっくり割けた空の亀裂から大きな瞳が覗いている。それは真ん丸の瞳で、視点はある一点に定まっていたかと思うとせわしなく動き、そして数秒に一度瞬く。
 この異常事態に世間は揺れた。最も世間の支持を得たのは、人間の振る舞いに腹を据えかねた神が世界を監視下に置いた、という説だった。この説を唱えた新興宗教の長はテレビに引っ張りだこだ。しかしそんな状況が三ヶ月も続けば、誰も驚かなくなる。当たり前の存在になりつつあった。
 彼の興味は黄色いものに向く。配管工事の黄色いメットから夏の向日葵畑まで、黄色いものなら何でも構わないといった風だ。そういうものを見つけたとき、まず虹彩がぎゅっと絞られ、それからじっと目を凝らすように瞳が地表に近付く、ほんの僅かであるけれど。そしてその度に、世の中の人はたじろいだものだった。例えて言うならば衝突寸前の隕石。黄色は暗黙のうちに駆逐されたし、ミサイルが発射されるのももはや時間の問題だった。

 カフェテラスで紅茶を飲む。パラソルから顔をずらして空を見上げてみれば、あの瞳がまた何かを探している。これは私個人の感想だけど、あれは子どもの瞳だと思う。好奇心旺盛な子どもの――目が合う。にこりと笑い手を振った。瞳はプイと目を逸らしたけれど、それが気恥ずかしさからくるものだと、何となくわかってしまう。
 しかしそれが原因だったのだろうか。翌日、目が醒めて空を見てみると、彼はいなくなっていた。まっさらな天球に雲の白が鮮やかに映える。
 後で聞いたことだが、彼がいなくなって残念がる声は意外に多かったという。新興宗教の長はぱったりと見なくなった。



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「天の瞳」

 ぱっくり割けた空の亀裂から大きな瞳が覗いている。それは真ん丸の瞳で、視点は一点に定まっていたかと思うとせわしなく動き、そして数秒に一度瞬く。
 この異常事態に世間は揺れた。最も世間の支持を得たのは、人間の振る舞いに腹を据えかねた神が世界を監視下に置いた、という説だった。この説を唱えた新興宗教の長はテレビに引っ張りだこだ。しかしそんな状況が三ヶ月も続けば、誰も驚かなくなる。当たり前の存在になりつつあった。
「馴れてはなりません! 神は我々の行為を今や、しっかりと、監視していらっしゃるのです!」
 そういう風に言われると、一応気にはなるのが人間なのだろう。犯罪率の低下を示すデータがバラエティ番組のボードに示されるようになる。三ヶ月とはそういう時間だ。
 この三ヶ月の間にわかったのは以下のような事柄だ。まず、瞳の高さは雲よりも遥か上であることだ。レーザー光線を使った実験によると、その高さは大気圏に相当するらしい。しかし瞳が自転の影響を全く受けないことについて、納得の行く説明はない。やはり神なのか? そういった論調は片っ端から科学者が否定するけれど、新興宗教の長は断固として神だと主張する。閑話休題、しかし何よりも重要なのは、彼の興味は黄色いものに向くことだ。配管工事の黄色いメットから夏の向日葵畑まで、黄色いものなら何でも構わないといった風だ。そういうものを見つけたとき、まず虹彩がぎゅっと絞られ、それからじっと目を凝らすように瞳が地表に近付く、ほんの僅かであるけれど。そしてその度に、世の中の人はたじろいだものだった。例えて言うならば衝突寸前の隕石。黄色は暗黙のうちに駆逐されたし、ミサイルが発射されるのももはや時間の問題だった。

 カフェテラスで紅茶を飲む。パラソルから顔をずらして空を見上げてみれば、あの瞳がまた何かを探している。これは私個人の感想だけど、あれは子どもの瞳だと思う。好奇心旺盛な子どもの瞳だ。世の中には面白いものがたくさんあるからねえ――目が合う。にこりと笑い手を振った。瞳はプイと目を逸らしたけれど、それが気恥ずかしさからくるものだと、何となくわかってしまう。
 しかしそれが原因だったのだろうか。翌日、目が醒めて空を見てみると、彼はいなくなっていた。まっさらな天球に雲の白が鮮やかに映える。仕事中や帰り道にも時折目を向けたが、彼はいなかった。残念。息をつくとお向かいさんの家の男の子にばったり会う。その瞳は彼にそっくりだった。こんばんは、と声を掛けると男の子ははにかみ、ママの後ろに隠れてしまう。
 後で聞いたことだが、彼がいなくなって残念がる声は意外に多かったという。






 思い立ったが吉日、忘れる前に発掘。
 怖くも何ともないのはいつものこととして、やっぱり何か違うよなあと。

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