2006年11月2日木曜日

夜夜中

 暗い暗い部屋の片隅で私は膝を抱えてまるくなっている。電話。もしもし。
「幸せ?」
 ううん、幸せよ。
 なら、いいんだ。

 息も凍りつく寒空。携帯電話を折りたたみ少年は線路を歩く。枕木、を一つ一つ踏みしめて。
 プオオオン……
 ぎらぎらの光、を携え後ろから貨物列車。どんどん濃くなる影、に堪らなくなり少年は雄叫びをあげる。

 ふくろうは血の滴る眼球を咥えて空を飛んでいた。疲れると貨物列車の背に留まるが、やがて羽ばたく。月影に羽根。

 百合の花を模した地下二百メートルのホールの真ん中は小高い台で、グランドピアノが置いてある。
 観客は色とりどりの羽根つき仮面をつけていた。少女はおじぎする。真っ黒な椅子に真っ白なドレスのお尻を乗せ、ピンクの小さな爪を大きすぎる白黒の鍵盤の上で躍らせる。ぽろん、ぽろん。病的なスポットライトの中の少女を、仮面たちが煙草を片手に観察する。観察する。観察する。蹂躙したくなる。

 私は夢を見た。永い永い夜の夢。
 ピンクのカーディガンを羽織り渚のアデリーヌを弾いた。しゃくりをあげて、ぽろぽろ泣きながら。うるさくたってかまうもんか。かまうもんか。月影、にぽろん、ぽろん。




 タイトル競作『夜夜中』○×1 どもでした。





 書かれるべきことよりも書きたいことを書いてしまうようになったのはいつからなのだか。成長した子供が人形に人格を与えなくなるのと同じことなのかしらん。それは淋しい話じゃあありませんか。

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