2006年11月9日木曜日

流れる

 極彩色の空中庭園の片隅に一人の少女が捉えられている。裾が血で穢れた純白のドレスと鼠色の足枷。何千年もの間、少女は一度として世界のあらゆる記憶に登場しなかった。もはや自身の生死さえもわからずに。虚ろな瞳が決して色褪せることのない花々を映す。まるで、硝子球。
 かつてこの空中庭園には高貴な人々が住んでおり、彼らは多数の少女奴隷を有していた。彼らは彼女たちに唄を唄わせ、庭園の手入れをさせ、甕を蜂蜜とミルクで満たさせ、また夜の慰めにも利用した。しかしあるとき、少女一人を残して皆消え去ってしまう。
 それから少女は絶えず血を流すようになった。ドレスの裾を赤く染めて円状に広がる血は大理石の排水路に至り、一本の赤い糸として滴り地表をなぞる。だが、それでも、人々は少女の存在にも空中庭園の存在にも気付かない。
 永すぎる年月を経て少女の胎はゆっくりと膨らんでいっていた。
 いつか一匹の毒蜘蛛が赤い糸を辿って空中庭園の少女に至るだろう。胎に入り込みそして児を噛み殺してしまうだろう。運命なのだ。それは数日後なのか、或いは何千年も先なのか、少女にはわからない。唯一、それがいつか訪れることだけこそが揺ぎ無い真実として。




「流れる」
・バイオリンとピアノの音をイメージして

 というわけでトーナメントのお題。見ていたら書きたくなってしまったのです。緑コーナーで参戦しません(何だ)。
 しかしなんでこういうものに仕上がってしまうのか、僕にもわからないのです。病んでるなあ、と半ば呆れ。タイトルとも遠いしなあ。

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