2008年2月26日火曜日

人形のちぎれた首

「人形のちぎれた首」

 我こそは、と名乗りを上げる首があまりに多かったので急遽オーディションが開かれる。審査員は首を失った人形の胴体と、持ち主の女の子。
「73番の方どうぞー」
 柱の影から首がころころと転がってきて、胴体と女の子の前で器用に立つ。長い旅をしてきたのだろう、元は綺麗に整っていたであろう鼻はすっかり摺れて丸くなっていた。綺麗だった金髪も埃と泥で汚れてしまっている。そして女の子が口を開くよりも先に「ああ! 久しぶりねマコちゃん、不幸な事故で首が取れてしまったけどやっと帰ってこれたわ。さ、早く私たちを一つにしてよ」早口でまくし立てる。女の子はコホンと咳払いをし、赤縁の眼鏡を掛けなおす。「早速ですが、わたしたちが初めて会ったときのエピソードを話してください」女の子は紺のスーツをぴっちりと着込み、脚は床に対してぴったり70度傾いている。
「そうね、初めて会ったときの話ね。今でもよく憶えてるわ、あれはマコちゃんがまだぶうぶうの赤ちゃんだった頃ね。私はマコちゃんのお父さんがマコちゃんにプレゼントにって買われたのよ。でもマコちゃんったらやんちゃな子でね、マコちゃんは私の首を掴んだかと思ったらぶんぶん振り回して、それがベッドの縁に当たってバキッて折れちゃったのね。お父さんとお母さんびっくりしてたっけね。結局そのときはお母さんが縫って合わせてくれたのだけど」
 懐かしいなあ、と首が遠い目をする。
 女の子と胴体は肩を寄せ合い、こそこそと筆談する。胴体は喋れはしないが視覚はあるのだ。
「ありがとうございました。結果はまた後ほどお伝えしますので、外でお待ち下さい」
 そして首は来たときと同じようにころころと転がっていく。
「74番の方どうぞー」


0 件のコメント:

コメントを投稿