猫を抱いて、宿の二階から空を見上げる。灰色の雲が空を覆い、絶えることなく雨粒が降り続けている。風はない。窓枠で切り取られた四角を、ちっぽけな雨粒が上から下へ落ちる。その彼方には、山の稜線とほんのり白い空。
宿の娘は、あそこから晴れが来るんです、とそばかすいっぱいの頬を緩ませて笑った。
宿の主人は、あそこから晴れが来るのですよ、とたるんだ腹を隠しながらニッと歯を見せた。
宿の女将は、あそこから晴れが来るんだよ、と水の筋が走る窓の外を見遣りながら微笑んだ。
しかしこの三ヶ月、私は晴れを一度も見たことがない。それでも彼らは、たびたびああいう風に言っては笑うのだ。
うとうとと船を漕ぎ出した私に、腕の中の猫が、にゃお、と呼びかける。
ああ、そうだね。きっと晴れは来ないね。
頭を撫でてやると、猫は眼を閉じもう一度鳴く。その猫の頭に置いた手の甲に頬を乗せる。私も眼を閉じる。
次に眼を開けたとき、私と猫はこの国の住人になっている。一人と一匹で、ずっとこうしている。
ここは雨の降る国。
500文字の心臓の自由題に掲載されてしまったもの。
描いたのが確か6月かそこいらだった気がします。覚えてません。いや、その頃だったと思います。確か。自信ないですけど。というか、いつだっていいやーんって話ですな。
で、話は変わって。
以下、今回のが出来上がるまでに色々書いてたもの(原文のまま)。無修正ですよ奥さん!
なーんか書きたくなった。
しとしとしとしと。雨が降る。しとしとしとしと。音も無く。しとしとしとしと。
窓の外から見える景色は、灰色一色。山の稜線の間際の空が、ほんのり白い。きっとあそこから晴れがやってくる。
でもここは雨の降る国。
晴れの続く国じゃない。一年中毎日、晴れることなく雨が降り続ける。いつか雨が止む、もうすぐ雨が止む。希望を目の前に吊るして、手に入れる瞬間の直前の高鳴る胸の鼓動を感じる国。
だからここの国の住人は口を揃えてこう唄う。私達は世界で一番幸せな国の住人。
目の前の晴れを愛でよう。もうすぐ手に入る晴れを愛でよう。やがて訪れる雨との別れを惜しもう。しとしとしとしと。弱弱しく雨が降る。一年中毎日、いつまでも。しとしとしとしと。
ここは雨の降る国。
ここは時の止まった国。
雨粒が地面を叩く音だって聞こえない。
しとしとしとしと。
雨の降る国
猫を抱いて、宿の二階の窓辺から空を見上げる。どんより曇った空からは絶え間なく雨粒が降り続ける。風に邪魔されることなく、ただ上から下へまっすぐに、無数の雨粒。遠くの山の稜線はほんのりと白い。
宿の娘は、あそこから晴れが来るんです、とそばかすいっぱいの頬を赤くして笑った。
宿の主人は、あそこから晴れが来るのですよ、とたるんだ腹を揉みながらニッと歯を見せた。
宿の女将は、あそこから晴れが来るんだよ、と窓の向こうを見ながら微笑んだ。
しかし私は、雨が止んだところをまだ一度も見たことがない。この三ヶ月、ずっとこの調子だ。しとしとしとしと、雨が降り続ける。雨粒が地面に落ちる音だって聞こえない。
腕の中の猫が、にゃお、と鳴いて私を見上げる。
ああ、そうだね。きっと晴れは来ないね。
頭を撫でてやると、猫は眼を閉じもう一度鳴いた。その置いた手の甲に頬を乗せる。私も眼を閉じる。
しとしとしとしと。雨が降る。
止まった時を感じて頂ければ幸い。
猫がこの雰囲気に一番合ってた。きっとストレス溜まってるだろうけど。この娘は猫と一緒に旅をする(←もうこの時点で無理だけど)。
静かな時よ、続け。変わることなく。永遠を求めたくなることだって、あるんだ。
以後ちょろちょろっと手直しして今回のヤツに至るわけです。
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