真夜中、糸車はカラカラと乾いた音を立ててゆっくり回る。
老婆は何十年もそうしてきたように、小さく縮んでしまった手で糸を紡ぐ。老婆の呼吸は穏やかに、そのリズムは糸車の音と調和し、永らく雲に隠れた月光がうっすら窓辺を照らし出したとき物語は語られ始める。
幸せな話は黄色い糸で、哀しい話は灰色の糸で。老婆に初めて孫が生まれた日は赤い糸。途絶えることなく続く老婆の記憶は現在から過去へ一秒一秒、確かな糸として紡がれる。カラカラと音を立てて回る糸車の足元には、色とりどりの糸が螺旋を描きながら蓄積されていく。
老婆はいつしか高く澄んだ声で唄う娘になる。その娘の前では神様も小さな男の子になり、膝を抱えてじいっと娘の物語りに聞き入っていた。
「これで私のお話はおしまい」
小さな女の子と男の子は互いの感触を確かめ合うように強く手を握り合って歩いていく。
糸車は惰性でカラ、カラ、と回り、やがて止まる。
小説書きさんに50のお題より。
寡作と言われたのが密かにショックなようです。ほれほれ。どーしてくれんじゃい。
……次のお題は『地図にない国』。らしい。です。
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