2007年4月24日火曜日

「面」

 今朝学校へ行くとみんな面をつけていた。大好きなミツコちゃんがネコの面で、おはよう、と言う。おはよう、と返す声はぎこちなく、かといって面のことを訊くこともできずにもやもやしていたらイヌの面の先生が現れた。遅れて入ってきたのはウサギの面の女の子だった。突然の転入生に、教室は俄に沸いた。
 はじめまして、初山理恵子です。わからないことはたくさんあると思うで、教えてくれると嬉しいです。
 ぺこりと頭を下げ、再び視線を上げたとき初山理恵子は確かにこちらを見た。クラスで面をしていないのは僕だけだったから当然といえば当然で、だけど以後初山理恵子がこちらに目を向けることもなかった。
 初山理恵子と初めて会話をしたのは一緒に兎小屋の掃除をしているときで、初山理恵子は夢の話をした。真っ暗闇の中、自分はたくさんの面の上を歩いていてその中で出会う人は誰もが面を被っているのだという。変な話だよね、と苦笑する初山理恵子は照れ隠しでもするかのように僕に背を向け、虎の面を被った兎たちを隣の柵へと移していく。僕はごくりと唾を飲み込み初山理恵子の後ろに立つと、初山理恵子の面を剥ぎ取った。わっ、と泣き出す初山理恵子はウサギの面。手にした面を僕は被る。すっかり初山理恵子になった僕は虎の面を初山理恵子に被せ、兎小屋に押し込んだ。
 翌日先生が、片山はご両親の都合で急遽引越しすることになった、と告げた。

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