2008年12月7日日曜日

支那の占い師

「支那の占い師」

 もともとそこはマムルークが滅ぼした部族の町だったが、生き残った者らが力を合わせて村を作ったのだという。
 初めは地平線に浮かんだ黒いシミだった。陽炎の立つ荒れ肌の大地に目も眩むような灼熱の太陽。ローブを頭から被り、駱駝の一頭も連れず、体一つでその男はやってきた。男は言った。「私は東の国からやってきた」「支那か」「そうだ。ところで水を一杯いただけんかね」村人は顔を見合わせていたが、村長が前に出、男をもてなした。気を良くした男はその晩、お前たちをあの厄介な火の玉から救ってやろう、と高笑いした。そして翌朝、村人はあっと腰を抜かしたのである。無理もない。数ヶ月ぶりの曇り空かと思いきやそれは地の果てまで覆う天蓋だったのだ。豪奢な刺繍が日に透けて見えた。男は村から離れた場所に同じく一晩のうちに小屋を建てて妖しげな香を焚いていた。
 噂はたちまちカリフの耳に入った。使いを遣し都まで来るよう伝えるが返事は決まって、否。業を煮やして軍隊を派遣するが謎の砂嵐に阻まれて軍隊は辿り着くことも叶わない。ある日、カリフが狩りをしているときに虹色の雁が飛ぶのでこれを射殺してみれば、雁は男の声で「数日のうちに北の町が大地の怒りに触れ滅びるだろう」と叫んだ。三日後、国の北部では地が割れた。その報告を聞きカリフが頭を抱えていると、広間に鳥の鳴き声が響き渡る。何事かと見遣れば虹色の雁。雁は高い天井をぐるぐると旋回しながら声高らかに「半年のうちに海神は南の港町に裁きを下すだろう」と歌った。カリフはこれを射殺した。そして港町は津波に飲まれ後には何も残らなかった。
 その様子を水晶玉で眺めていた男は、うわっはっはっは、と大笑いした。水晶に映ったカリフの顔の情けないことと言ったら! 男は水煙草に火をつけると胸いっぱいに煙を吸い、ふーっと吐き出した。煙は小屋の天井に漂う。「我は支那の占い師である。数年のうちに天は西の都を浄化すべく相応の使いを遣わすことだろう」すると煙がだんだん一箇所に集まり始め、それは虹色の雁となる。雁は一声鳴くと小屋を飛び出し、天蓋を抜けると空高く舞い上がり、西の都のカリフのもとへ行く。雁は都中いっぱいに響き渡る声で占い師の予言を告げる。カリフは宮殿中の兵に命じて雁を射殺させた。
 やがて一年が過ぎる。何も起きない。
 つぎの二年が過ぎる。何も起きない。
 そして三年が過ぎる。何も起きない。
 しかしその間にカリフはすっかり骨抜きになっていた。もはや自分ひとりでは立つこともままならない。他国の不穏な動きの報せを聞けば怯え上がり、病の噂を聞けば部屋に篭って出ようとしない。
 さて一方で男は何をしていたかと言うと、相変わらず小屋に篭ったきりなのであった。それでも香が絶えることはなかったため、いつしか畏れられるようになった。だがある日、怖いもの知らずの子どもが小屋に忍び込んだ。ローブを頭から被った男はちらりと子どもを一瞥したがそれきりどうにもしない。子どもは二つ三つ質問をするが返事がないのでこれに怒り、近くにあった水晶を男に投げつけた。すると水晶は男の体をつき抜け柱に当たって割れた。男の体はたちまち霧散する。それと同時に小屋も天蓋も消えてなくなり、後にはキエエと鳴く虹色の雁が西へ西へと飛んでゆくのが見えるのみであった。




 次回のてんとう虫「異国」用(仮)。
 異国情緒溢れるはずがなんだか違う方向に傾いた気がしなくもないけど、まあいっか。



 以下では先日のふらくん送別会のお話。



 まず初めに。
 何と言うか、本当にご愁傷様でした。大変な時期に重なってしまい非常に精神的に辛い部分もあるかと思いますが、どうぞお元気に。
 一応当方の祖父母は母方父方共に健在なのですが、冷静に考えればというか普通に考えて非常にありがたいことです。たくさん孝行せにゃあなと思います。
 ***
 そんなわけでふらくん送別会@12・5
・ふらくん、ひょーたんと足でじゃれあう。手は禁止!
・海百合さんと初遭遇。「いさやん!」「やあ!」みたいな。
・「カップルで温泉=混浴?」で論争する。1:3
・寄せ書き寄せ書き。
・来年の文フリは出雲からはるばるやって来そう。
・飲み食いするうちに一次会がお開き。時間の都合上、ここで退散。
・のはずが、迷子の迎えに行く。
・電話でやり取り。
・「とりあえずJRの改札!」「(ぐだぐだぐちぐち)」「いいから改札」
・まったく君は駄目な子だなあ。
・無事送り届けた後はちょっとだけ顔を出して、今度こそさよなら。

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