【学ぶ】
『光板製造工場』
ひかり町の一角には光板(こうはん)と呼ばれる素材を作る工場があります。光は一兆分の一に圧縮すると固体に似た性質を持つようになるのです。そうして圧縮したものを光板と呼びます。光板は常に光を帯びており、その強さや色は圧縮の際に混ぜるレアメタルの種類と量で調整可能です。光板をふんだんに使った家を建てることが、ひかり町での長者の証でした。
「ものがたり」
『革命前夜』
K博士の研究はいよいよ総仕上げを迎えていた。研究が完成すれば、光板の量産体制を確立することができる。
三日三晩、K博士は実験を繰り返す。その様子を陰で見守るのはT女史である。不意に、女史のイヤホンに部下からの報告が入る。女史はマイクに素早く指示を出した。
博士の研究を快く思わない者は少なくない。光板が量産可能になれば相対的にその価値が損なわれるためだ。
闇社会は強大である。
K博士の命を狙う者がいる。研究設備を破壊せんとする者がいる。あるいは、政治的手段で博士の研究資金の凍結を図る者もいる。何百、何千という悪意がK博士を取り囲んでいた。
――圧縮機の重低音が止む。
博士は取っ手を握り、分厚い鉛の蓋をゆっくり開く――それを待ちきれない生まれたての光が、溢れ、溢れ、溢れる。
博士は光の詰まった圧縮機の中にピンセットを沈めていく。
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2012年1月16日に行われた超短編イベント「西崎憲さんと語る「可能性の文学」の歩き方」の中の一企画に寄稿。詳細はこちら。
建築材はその都市を雰囲気を決定する最たるものだと思うので攻めてみたのだった。
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