男が青い鳥を見つけたとき、鳥たちは二、三羽集まって人の肉を啄んでいた。青い鳥たちはゲエッ、ゲエッ、と耳障りな声で鳴き、饗宴を楽しんでいるようだった。
石ころを投げて鳥どもを追い払った。青い鳥たちは高枝にとまり、未練がましく餌を見下ろしていたが、間もなく飛び去っていった。
それは齢が十にも届かないような少女であった。眼球は既に無く、頬や腹部など柔らかそうな部位が優先的に喰われていた。せめて、鳥たちに弄ばれたのは彼女が息絶えた後であることを願うばかりであった。
どうか安らかな眠りを――。
男は少女を仰向けに寝かせ、固くなり始めた手を胸の上で重ねさせる。
そして祈りの言葉を口にしようとしたそのとき、
「天国に行けないじゃない!」
少女が無いはずの眼を見開いて叫び、今度こそ息絶えた。
2013年6月18日火曜日
2013年1月28日月曜日
情熱の舟
A氏は常に言いようもない悲しみに包まれている人だった。その正体が何であるのか、A氏自身は理解していたのかもしれないが、私にはわからないものだった。何か思い悩むことでもおありでしょうか、と思いきって訊ねたこともしばしばあったが、その度にA氏はおどけて見せたものだ。そういう兆候が十分にあったからこそ、A氏が失踪したとき、私は特別驚きもしなかった。
A氏がいなくなった最初のうちこそ、A氏の周囲の人々は大騒ぎしたものであったが、事件や事故による失踪ではなく自身の意思によるものであることが察せられるにつれ、理不尽さややるせなさと引き換えに次第に落ち着きを見せるようになった。今や誰もA氏の名前は口に出さない。A氏の仕事上のポストは新たな中途採用者に代わり、A氏と恋仲にあった女性は今春に別の男性と籍を入れるという。
時折、私はA氏の住まいだった場所を訪れる。人気のなさは、しんと静まり返った湖の水面を思わせる。その水面にちょんと爪先で触れてみると驚くほど冷たかったのだった。
��**
タイトル競作投稿分 ○:1、×:1
A氏がいなくなった最初のうちこそ、A氏の周囲の人々は大騒ぎしたものであったが、事件や事故による失踪ではなく自身の意思によるものであることが察せられるにつれ、理不尽さややるせなさと引き換えに次第に落ち着きを見せるようになった。今や誰もA氏の名前は口に出さない。A氏の仕事上のポストは新たな中途採用者に代わり、A氏と恋仲にあった女性は今春に別の男性と籍を入れるという。
時折、私はA氏の住まいだった場所を訪れる。人気のなさは、しんと静まり返った湖の水面を思わせる。その水面にちょんと爪先で触れてみると驚くほど冷たかったのだった。
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タイトル競作投稿分 ○:1、×:1
2012年11月18日日曜日
チベ物語
「チベ物語」
ある晩、門前の妖怪小僧はこのような夢を見た。牧草で満ちた緩やかな丘陵と一面の空、牧草を食む動物たち。その中で一人たたずむ精悍な顔立ちの青年は門前の妖怪小僧が見慣れぬ僧衣を着ていた。
他にも色々な経験をしたような気がするが、門前の妖怪小僧が目を覚ましたときに覚えていたのはこれだけだった。まだ眠たい目をこすりながら、しかし夢で見た青年の横顔だけがなぜだか忘れられずにいた。
「不思議なこともあるものだなあ」
門前の妖怪小僧は今日も聞きかじりの経を読み上げる。百年間読み続けているが、相変わらず意味はわからない。
ある晩、門前の妖怪小僧はこのような夢を見た。牧草で満ちた緩やかな丘陵と一面の空、牧草を食む動物たち。その中で一人たたずむ精悍な顔立ちの青年は門前の妖怪小僧が見慣れぬ僧衣を着ていた。
他にも色々な経験をしたような気がするが、門前の妖怪小僧が目を覚ましたときに覚えていたのはこれだけだった。まだ眠たい目をこすりながら、しかし夢で見た青年の横顔だけがなぜだか忘れられずにいた。
「不思議なこともあるものだなあ」
門前の妖怪小僧は今日も聞きかじりの経を読み上げる。百年間読み続けているが、相変わらず意味はわからない。
2012年10月17日水曜日
午前四時の憂鬱
生まれた時から私はお姫さまであり、ゆくゆくは世界を統べる王になるのだと、繰り返し繰り返し、言い聞かされて育ってきた。長時間椅子に座り続ける練習も、重たい王錫を振る練習も、威厳を持って命を発する練習も、全て優れた女王になるための鍛錬なのだという。
優れた女王であるならば、臣下に死罪を言い渡さなければならないこともある。もちろん心苦しいことではあるが、止むを得ないものでもある。
私が判決を告げると、彼は項垂れた。長い時間が流れた。彼はのろのろと立ち上がり、お手製の絞首台で首を吊った。
振子時計の振子みたいに死体は揺れていたが、やがて停まった。
私は椅子に腰かけてそれを見上げていた。
王錫代わりの麺棒を手放し立ち上がる。
六畳一間の狭い部屋の中で、私は一体何者なのだろうと考えてしまう。
優れた女王であるならば、臣下に死罪を言い渡さなければならないこともある。もちろん心苦しいことではあるが、止むを得ないものでもある。
私が判決を告げると、彼は項垂れた。長い時間が流れた。彼はのろのろと立ち上がり、お手製の絞首台で首を吊った。
振子時計の振子みたいに死体は揺れていたが、やがて停まった。
私は椅子に腰かけてそれを見上げていた。
王錫代わりの麺棒を手放し立ち上がる。
六畳一間の狭い部屋の中で、私は一体何者なのだろうと考えてしまう。
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