2005年12月12日月曜日

無題

 丘を登りきると一面に野原が広がる。唐突に訪れた冬は、夏と秋を跨ぎ、春の装いのまま野原を凍てつかせていた。芯まで凍った草葉の上で、一人の女が嗚咽を上げながら、鷲掴みにした紅い花びらを宙にばらまいている。はらはら舞い散る花びらはやがて凍てつき、地面に落ちると粉々に割れる。ぱりんぱりんという音の間に、女の嗚咽。厚い雲が全ての音を吸い込んで醜く肥大化し、やがて僕の耳に彼女の声が届かなくなる。雲の縁が彼女の頭上に迫り、まさに飲み込まれようというそのとき、女は真っ赤に腫れた眼をこちらを向けて「   」と叫んだ。煩いよと言い捨てて、僕は背を向ける。



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