2006年2月1日水曜日

西へ

 四季の折々に極彩色の花を咲き散らす樹の下で少女は生まれた。いつもそんな夢を見る。薄茶色の毛布をどけて立ち上がると、足元には古地図があった。図書館の背の高い本棚と、それより遥かに高い天井、天窓、真っ黒な羽根を撒き散らし横切る黒い鳥。青は鳥に啄ばまれた。灰色の空に白い雲が溶け込んでいる。ステンドグラスのキリストは磔にされたまま。髑髏に咲く花は紅薔薇だ。
 古地図に描かれたコンパスは西を示していたので、少女は古地図の上を西へ歩く。少女がツェッペリンの飛行船を跨いだところで、
「ビッグベンは鳴らないよ」
「鳴らないわね」
 本棚の上で寝そべる少年は少女を見下ろした。
「海を渡るの?」
「紙の海なら絶対に溺れないもの」
 本棚の一段から黒い鳥が現れて、向かいの本棚へゆっくりと飛んでいく。とても醜い鳥だった。禍々しい声で鳴く鳥は紛れも無く少女の鳥だ。少年は鳥の背に飛び乗ると、首を絞めた。鳥は奇声を上げながら死ぬ。古地図の上に鳥と少年が落ちた。遅れて、黒い羽根。少女の司会一面を覆い、羽根が全て落ちると紅薔薇に穴が空いていた。先の見えない穴に向かって古地図は続いている。西へ。
 真っ白な少年の手が、穴の奥から少女を呼んでいる。


 500文字の心臓の第30回自由題掲載。
 サイトの方からコピペができなかったのでシクシク泣きながら手打ちでコピペですよ。んで、そうしたらまた泣きたくなってきた。「この言葉の選び方はないだろうよ」と十回は突っ込んだハズ。500の文字に対して。うげぇ、ですよ。もっと精進します、ハイ。

 ところでホラー超短篇なるものをやるとか。是非とも参加しましょう。あとトーナメントにも。誰と対戦することになるのかわからないけども、マンジュさんとの勝負だけは避けたいなあ。理由は察してやってください。
 

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