2006年9月12日火曜日

3 ふりむいてはいけない

 おさない腕にぬいぐるみをたずさえて、少女はうねうねとつづく小道をあるく。ちいさな足跡は今や幾万。さいしょの一歩は永く地面にはりついていたが、とうとう風にあおられてとんでいってしまった。ひゅうるり、ひゅうらり。さいしょの一歩はひるがえりながら己の分身をおいこしおいこし、少女がつぎの一歩をきざむまえに靴のうらにはりつき、まんまとつぎの一歩になりすます。われも、われも、と二歩目三歩目四歩目も風にのり、少女のみぎの足跡、ひだりの足跡になるのだ。そんなことがつづくので、足跡になるはずだったものたちは少女をうらぎり各自の好きなかたちでちりぢりにちっていく。ねこのかたち、きりんのかたちが少女の足跡からうまれ、どこかへさっていく。
 みたいかい? でもだめだよ。
 なんでだめなのか少女はおしえてもらえない。わがままをいうと、ぬいぐるみは少女をうらぎり一緒にねてくれなくなるからだ。



 お題第三弾。
 次は「禊(みそぎ)」だそうな。

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