2006年12月28日木曜日

あるバンド

 ぼくらはバンドを組んでいる。ぼくがドラムだ。
 それは激しい曲でスネアやシンバルをじゃんじゃん鳴らすんだ。エレキの子もベースの子も、みんな。ぼくはドラムだから一番後ろにいて、全員の様子がわかる。足でリズムを取るキーボードの男の子、ぴょんぴょん跳ね回るボーカルの女の子、闇に沈殿する観客。誰のとも知れない汗がスポットライトの中で弾けて、なんだか、とてもたのしい。とても気持ちよくって、ぼくもドラムをますますじゃんじゃん叩く。一番好きなのはサビに入る前で、周りの音がふっと弱くなって一番目立つ。だから、つい、早く、力強く、叩いてしまう。そしてするりとボーカルの女の子が旋律を奏でて、ぼくを含めた周りが盛り上げる。細かい刻みが疾走感を掻き立てるけどボーカルの女の子はゆったりと、幅と深みのある声で歌いあげる。声は一つの楽器だ。そんなとき、ぼくは女の子に寄り添うようにドラムを奏でてしまいたくなる。だけど、それはメンバーの全員が思っていることで、お互いが思っていることも全員が知っている。だからぼくらはなんとか抜け駆けをしようと音をじゃんじゃん鳴らす。だけどボーカルの女の子はぼくらみんなが好きだと言うからぼくらはやきもきしてしまう。

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