2007年4月7日土曜日

カタリナ

「カタリナ」

 木苺の庭園の中心には秘密の花園があるが鍵は失われており、カタリナはとうとう見つけることができなかった。カタリナは時間を見つけては自分の背丈とさほど変わらぬ小さな鉄扉の前に立ち、身を屈めて鍵穴を覗く。そこに見える花園には一面の花畑が広がっている。春には七色の花々が咲き乱れ、夏は葉が生い茂り秋は一切を黄金に染めて、冬には真白な雪が何物にも穢されることなく春の陽光を待ちわびた。カタリナは嘆息を零し、せめて魂だけはと花園の住人になる夢を見る。
 しかしある日、カタリナはあどけなく自分の名を呼ぶ弟の舌に、白銀色の鍵が埋まっているのを発見し直ちに確信する。今はまだ鍵穴に合わないだろうが、いつかふさわしい大きさになるだろう。そうしたら如何にして手に入れようか。まだ歯の生え揃わない口の中で赤い舌がちろちろと踊り、時折幼い鍵が煌く。カタリナは弟に遊戯を教えながら計画する。乳母たちがドアの向こうで囁き合うのを視野に据えることも、もちろん怠らない。



 発掘その二

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