2007年4月7日土曜日

チョコ痕

「チョコ痕」

 原子炉はチョコレートに汚染され叶わぬ恋を発病し、理解不能な体の芯の疼きを症状として訴えるが技師は既に亡く、滲み出た廃液が地面を茶色化させ融解させる。たぷたぷ波打つ水面はやがて固まり、ひび割れたそれは火傷のようでもあると誰かが呟いた言葉が翌日にはニュースで使われ瞬く間に世界中に広がった。衛星写真は0と1に分解され空という空を飛び交い埋め尽くす。原子炉はしゅうしゅうと蒸気を吐き、傾げたまま固定されてしまった体で空を見遣る。技師さん、技師さん、見えるかしら、わたしはこんなふうになってしまいました、わたしの姿はああやって世界中に知れ渡っているのです、信じられますか、ねえ、技師さん。名を呼ぶ度に鉱炉がぽおと明るくなるのを感じる。ああ、技師さん、技師さん、でもね、わたしの姿がああやって皆に知られても、技師さんの骸がわたしの中にあることは誰も知らないのです。ですがそのうち調査団が乗り込んでくるでしょう、技師さんを連れ去ってしまうでしょう、技師さんは技師さんの家族のもとに帰されていつだったか技師さんが愛惜しげに眺めていた写真の女の子に真白な百合の花を手向けられるのでしょう、どこか遠い街の小さな墓に永遠の寝台をあてがわれるのでしょう。だけどわたしは、きっと、技師さんを迎えに行くでしょう。技師さんを想って滲み出る残滓が地表を隈なく覆い、やがて技師さんはわたしの腕の中に戻ってくるのです。ああ、技師さん、技師さん……。



 未投稿分。いつ書いたのかも忘れていたものを発掘です。

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