2007年5月23日水曜日

めがね

「めがね」

 世界の正しい形を教えてくれるめがねを失って一週間が過ぎた。いびつに歪み焦点の定まらない視界に私が慣れる気配は微塵もなく、道を歩けば物や人にぶつかりその度その度泣きそうになる。何故失くしたのか、何処へ行ったのか。知らない。涙のレンズが僅かな間だけ世界の正しい形を示唆するがたちまちぼやけてしまい、一瞬の期待さえ恨む始末だった。めがねを持つ人が恨めしい。めがねがなければ世界と向き合うことすらできない人たちめ、よく聞け。私は今、真正面から向き合っているんだ。輪郭の定まらない歪んだ顔の人たちに囲まれて輪郭の定まらない歪んだ顔の男性と結婚して輪郭の定まらない歪んだ顔の子供たちに囲まれて老後を過ごすのだ。彼らは醜いと言うか哀れと言うか、好きに言わせればいい。決して正しくないかもしれないけど、世界の本当の形なんだ、これが。
 ぐしぐしと袖で鼻の下を擦る。


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