2007年5月22日火曜日

奇妙な花

「奇妙な花」

 その子はとても大人しく、いつもにこにこしており、どんなつまらない冗談にもコロコロと笑い、本人すら気付かないことにも良く気の付く子だった。はっと目が醒めるような美しさではないが、川辺に咲く名前も無い小さな花のような素朴さと可愛らしさがあり、僕はたちまち恋をする。雀の涙ほどしかない勇気を振り絞って話し掛け、遊びに誘い、友人に冷やかされながらも努力は実を結び、「うん、よろしくね」とはにかむ顔が狂おしいくらい愛しくてどうしたらいいかわからなくなるほどだった。初めて握った手はびっくりするくらい小さく柔らかく、いつしか唇や胸にばかり目が行くようになり自己嫌悪に陥る。それは相手にも伝わったようで、どうにも釈然としない気まずさが漂うがそれでも彼女はいつものようににこにことしてて、例えば薄暗い夜道などには彼女の方から身を寄せてきて魔性を垣間見る。ある日彼女が物思いに沈んでいるのを見て、どうしたのか訊ねると僕の親友に口説かれたのだという。嫌な予感がした。親友に事の次第を聞くと、それは事実無根だという。そのときはそれで話が済んだのだが、以後も何度か同じような話を聞き、いよいよ怪しいなと思うに至った。そこで秘かに彼女の身辺を探るが、特に不審な点は見当たらず、挙句「最近おかしいけどどうかしたの?」と心配される始末で、もう疑うのはやめようと心に誓うが完全にすっきりするわけでなく、さほど親しくない友人からも、お前やつれてないかと声を掛けられる。


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