2007年5月6日日曜日

ゆらゆら

「ゆらゆら」

 誰かが、ここは空気の堆積した海だ、と言ったときから山の頂でさえも海底なのだった。言葉が泡となってぷかぷかと浮上する幻視はなんだか心地いい。
 鉄塔を昇る。
 四肢のこんがらがった男女の囁き合う愛の言葉が気泡となって海面へと上っていく。ソーダ水のようにしゅわしゅわと。その様子が面白くて高笑いする。あっはっは、ととびっきり大きな泡がぼくの口から生まれ、声が途切れるまで膨れ続けた。この空の彼方には溢れた言葉が集る場所があるに違いない。飛べるかもしれないと思ったのはそのときで、言葉の空を航行する術を思考した。そこでは誰もが言葉を吸い、肺を通じて酸素を交換するように言葉を交換し、吐き出し、或いは血に乗せて全身に巡らせるのだ。くらくらして、どきどきする。なんてステキな世界なんだろう、と胸を鷲掴みして見上げる月はとても遠かった。風は水流のように押し寄せ、ぼくの心許ない足もとを無遠慮に揺るがす。






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