2011年8月12日金曜日

結晶

「結晶」

 岬で海を眺めていると、何かが沖から流れてくるのが見えた。目で追いながら足でも追う。時刻は午前四時。水平線がうっすらと紺色に色付き始めていた。
 漂着したのは海の色をした立方体のガラス箱であった。前のめりの体躯が湿った砂に沈み、その足元を波が洗っている。振り返れば僕の足跡。
 箱に居直る。
 真っ直ぐな辺を指先でなぞる。上の面をスライドさせると、ガラス板がずれて中が明らかになる。覗き込むと、そこにあったのは乱雑に詰め込まれた手首や衣服や靴や手紙であった。察するに持ち主は遠い国の少女のようである。一番汚れていなさそうなボールペンを選んで摘み上げた瞬間、太陽の上辺が顔を出し、ボールペンを始めとする箱の中のものを急速に溶かし始める。黒や赤などの様々な色の靄が立つ。潮風に流されていく。
 全てが溶けてなくなった後に残ったのは親指の爪くらいの紫水晶であった。それは僕が摘み上げても溶けることなく、光を受けてきらきらしていた。
 見つめ合う。
 僕は紫水晶を口に運び、嚥下した。おなかの辺りがぽっと温かくなった気がした。
 空になった箱は海へ押し返す。それが再び水平線の彼方に消えていくまで僕たちは見送っている。

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タイトル競作「結晶」 △:2
お粗末さま。

広辞苑先生に結晶という語の意味をお伺いしてみると、かなり抽象的な意味であることがわかる。
しかし、字面から連想できるイメージは鉱物であったり化学物質であったりとかなり具体的なものなのだよな。
その辺りのギャップが難しいタイトルだったなぁ。という感想。


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