「月を抱いて眠る」
誰かに後をつけられている気がして振り返ると月であった。おいで、と手招きすると、月はスススと降りてきて僕の腕の中で収まった。バスケットボール大の大きさだった。見事な満月で、抱いた腕が仄かに温かい。
僕はソファーに座り、月は僕の膝の上に座る。球面を撫で、特にクレーターの凹んだ部分を掻いてやると月はとても喜ぶ。
テレビでは突然月が消失したといって連日連夜の大騒ぎである。
「帰らなくていいの?」と訊ねると月はぐっと体を押し付け拒否の意を示す。
ある晩、月が夜空を見上げているのを見つけた。三日月である。月は僕に気付くと振り返り、僕に体をぐりぐりと押し付ける。
月を抱いて眠るとき、月の事情というものを考える。きっと僕には伺い知れない事情があるのだろうと思う。
これは決していつまでも続く暮らしではない。
けれど、安心しきった風に体を投げ出す月を見てしまうと、せめて眠っている間だけは、と思ってしまう。
��**
いつまでも胸を揉む話がトップにあるのはしのびない。
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