「黎明」
世界中のごみが集まる北海の最果て島。
目を醒ましたのは僕一人だけのようだった。おなかの綿がはみ出ているけれど、それ以外は対して傷ついていないようだ。目を瞑れば思い出すことはたくさんあるけれど、それは、もういい。
仰向けながら見上げるのは灰色の空。白い翼に黒い嘴を持つ海鳥の群れが視界を横断する。
僕は、生まれたての小鹿のように、立ち上がる。
少しだけ高くなった視点で見渡す世界は、どこまでも続いて見えた。この世にはこんなにもごみが溢れていたのだ。限界まで使い古されたものや、まだ新品同然のものもあるけれど、共通しているのは、それらはもはや誰にも必要とされていないことだけだ。
彼方に一際大きなごみの山がある。そこが島の中心であったようなので、そちらへ向かうことにする。誰か他に目覚めたものが居ることをかすかに期待していたのだ。しかし結局それは叶わなかった。それでも、苦心して山を登る。そうして辿り着いた山の頂で、僕は、ああ、と嘆息をこぼさずにはいられない景色を見る。
豆粒よりも小さな海鳥どもが、黒い嘴を振りおろしてごみを啄ばむ。あるいは群れで空を飛ぶ。その黒さで空は俄かに暗くすら見える。しかしその背後では、今まさに夕日が沈もうとしている。
僕は膝を抱えてその美しい光景に見惚れる。
げえ、げえ、と鳥どもが醜い声で鳴く。
僕は一つの決意をする。
夜が明けたら、新しい国の建国を宣言しよう。ここを新天地にするのだ。
捨てられるのはとても恐ろしいことだとみんな思っているけれど、案外気楽なものなのだから。
だから夜が明けるまでの間、君たちは決して負けてはいけないのだ、決して。
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