2017年12月7日木曜日

素敵なおはなし

 世界は一本の長い紐でできていて、複雑に、緻密に、丁寧に編まれている。空も大地も、生命も、社会も、全てが一本の紐で繋がっている。
 しかし世界は一本の紐であるのだから、必ずどこかに端がある。その端が自分の右手の小指であると知ったとき、少女は恐ろしくなり、誰にも明かさない秘密にしようと誓った。なにせ、小指を引っ張ると指はどこまでも伸びて、山が崩れたり学校の先生が失踪したりするのだから。
 彼女は夢想する。世界のどこかに、自分と同じように世界の端を持っている人がいて、自分たちは結ばれるのだ。世界は環になれる。そんな運命の人が世界のどこかにいる。
 数年後、果たして彼女は世界の端に出会う。誤算なのはそれが蛙だったことだが、大した問題ではない。不自然に伸びた左足を編んで整えてやり、彼女は自分の右手の小指と運命の蛙の左足を絡めて結ぶ。彼女は蛙の真っ黒な瞳を愛しげに見つめ、そして優しいキスをする。

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「もうすぐオトナの超短編」タカスギシンタロ選自由題最優秀賞 

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