2017年12月7日木曜日

灯火ひとつ

 六角形の閲覧室で本を読む。この図書館にはありとあらゆる書物が収蔵されている。

【任意の自然数n, mについて、n種類の文字を用いたm字の文章はさながらn進法で表現されたm桁の数字とも呼べるものであり、これらは可算無限集合である。もちろんこれらのうち我々にとって意味を成す文章となるものはごく一部であるが、無限から一部を切り取ってもやはりその集合は無限である。】

 ページを捲りながら私はノイズの海を泳いでいる。時折意味を成す単語や文に出会うが、それはすぐにノイズの波に飲まれてしまう。一冊を読み終えた後で心に残るのは一瞬浮かんで消えた単語や文である。それらは私の心を揺蕩いながら居場所を探している。

【物語がnのm乗で表現されるとき、我々が疑似体験する遠い異世界や誰かの心情はnのm乗個以上のものにはならないのだろうか。】

 遠い昔に見つけた一節を思い出す。機械的な文字順列の偶然の産物が物語は有限か無限かの境界を問うていた。それはどこにあるのだろう。きっと、読み手である私の心にあるのだろう。もしも私の心こそが、浮かんで消える偶然に彩りや魂を持たせているならば、それらは集まりいつか大国のレリーフを刻むのだろう。

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「もうすぐオトナの超短編」松本楽志選兼題(此処ではない何処か)
http://libraryofbabel.info/

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