2020年7月18日土曜日

魚と眠る

 くつくつと冷たい水が湧き出る山頂の湖の底で、銀色うろこの魚たちが眠っている。その中で最も若い稚魚は、ずっと昔に岩になった長老が見る夢を見ていた。
 赤く焼けた荒野に屹立する一本の塔。夕日を浴びて赤錆びた塔が天を貫いている。うら若き人間の乙女である長老は塔の頂を目指す。世界を貫く針の尖端となる。そうして世界を貫き、暗黒の果てに見えたのは満月。何もない湖の底だった。静寂と不変を愛した彼女は孤独に微睡んでいた。永遠にも等しい時間が流れる中で彼女は胸に奥底に眠っていた幼き頃の楽しい思い出に出会う。一つ、二つと記憶を思い出す度に、水底を照らす銀色の月明かりから銀色うろこの魚たちは生まれたのだ。
 そうして最後に生まれたのがお前だったのだよ。
 はっと稚魚は目を覚ます。長老はただの岩になっていた。

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