2006年9月14日木曜日

5 黒いラブラドール

 ぼくらは日が沈むと、丘のふもとで落ち合いてっぺんまで一気に駆けていきます。星の降る夜は素敵です。ぼくらは肩を寄せ合い、おずおずとどちらからでもなく歌を歌い始めますが、すぐにのびのびとした声になります。ひいんやりとした空気は遠くの空まで声が澄んで響くので歌っていてとても気持ちが良く、ぼくらは息する間も惜しんで歌を歌います。リズムに合わせて、右に、左に。星のまたたきを指揮代わりにフェルマータ。海から吹き寄せる潮風がぼくらの歌を山の向こうの、もっともっと向こうのまだ見たことのない世界まで運んでいきます。まるくてあたたかい街の灯がぽつ、ぽつと消えていく度に、ますます月はくっきりと星はきらきらと現れるので、ぼくらはとてもたのしくなります。そして、くそったれな大人たちには、まっ黒なぼくらがみえないので、ぼくらは誰にもはばかることなく、いつまでも歌を歌うことができるのです。


 お題 五
 次は『動かない右手』

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