2006年10月5日木曜日

ページの向こうに

「本は扉」「どこに通じているの?」「あらゆる物質的連鎖の彼方よ」
 姉がうっとりと瞳を閉じるので、妹は思わずぼくをぎゅうっと抱きしめた。
 数日後、姉は本の中へ蕩けてしまう。
 妹は家に一人残される。大人たちは姉を探して家の外。ぼくは放られ床の上。
「姉さんは帰ってくる」なんで?「姉妹だもの、わかるよ」
 一ヵ月後、大人たちは人形を買って帰宅する。姉妹の部屋に侵入するとプラスティックの箱から人形を取り出し、ぼくと並べて座らせた。
 大人たちが出て行くと、妹は人形を抱き上げる。「おかえりなさい、姉さん」
 それから妹とぼくは、人形になった姉から旅の話を聞いた。妹が眠った後もぼくらは肩を並べていろいろな話をする。
「ねえこのお話のタイトルを教えて」
「ぼくはただのぬいぐるみだ。わからないな」
「じゃあここはあなたが在るべき場所じゃないのよ」
 姉の新品のグラスアイが開かれたままの本を映している。挿絵は小高い丘の塔と満月だ。
「あの塔のラプンツェルはね」姉は溜息をついた。「ちゃんと自分の名前がタイトルだって知っていたわ」
 探しに行きましょうよ。私とあなたと、あの子の三人で!

 挿絵の満月がたぷんと揺蕩う。
 そしてぼくの腕はぴくりと動く。

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