2007年5月16日水曜日

微亜熱帯

「微亜熱帯」

 地下へ続く階段を下ってドアを開けるとそこはもう大分昔に捨てられたバーで、僕らの家である。僕はすぐにドアを閉める。するとたちまちねっとりとした甘い匂いが手足に絡み付いて奥へ奥へと招き寄せる。コンクリートの床は数歩も歩かないうちに樹の根で覆われ、熱帯植物の吐く息で絶え間なく液体が滴り落ちる。熟れたマンゴーが自身の重さに負けて爆ぜていた。うっかり踏んでしまい嫌な感触が足の裏でしばらく続く。「ただいま、また踏んじゃったよ」と弟に笑う。バゲットを手渡すと弟は奥へ持って行き、その間僕は椅子に腰掛け息をつく。靴の裏には黒く汚れたマンゴーの実。目を閉じると、植物の胎動の音が聞こえるようで、弟に呼ばれて眠ってしまっていたことに気付く。湯気の立つリゾットを弟と二人で食べる。



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