2007年5月1日火曜日

楽園のアンテナ

「楽園のアンテナ」

 楽園を求めて旅する僕らは、世間ではサーカス団として認知されているようだ。
 満月の夜は特に盛り上がる。大男の吹く炎は天井ぎりぎりまで燃え盛り、座長が隣で「少しは加減しろ!」なんて騒ぐが決して本気ではなく、次の出番を待つ新入りの子が僕らの後ろでリハーサルを繰り返す。いつもの光景だった。
 空中ブランコの大演技が終わりアンコールの声が止まぬ中、座長は舞台の真ん中に立ち、演説を始める。
「皆様、今宵はお楽しみいただけたでしょうか、いいや返事は要りませぬ、我々には皆様の興奮を敏感に感じ取るアンテナがあるのですから。ところで皆様、我々は決してただのサーカス団ではなく、実は楽園を探す徒なのでございます。思えば我々が旅立ったのはもう何代も昔のことですが、未だに辿り着く気配がありませぬ。果たして本当に楽園などあるのでしょうか? あるのです。皆様、どうぞこちらをご覧下さい」
 松明が宙を照らし僕の姿が露になると、眼下で蠢く観客の視線が集中するのがわかった。僕は顎を引く。じっと目を瞑り深く息を吸い込み、網膜に映える星空に楽園の在り処を尋ねた。彼らは決して直接的には教えてくれないが、しかしいくつものメタファーを与えてくれる。今日は観客の小さな男の子の、慌てて隠したくしゃみだった。僕は細く張られた縄の上へと歩みだす。観客のどよめきの中から件の男の子の視線を探り、そちらへと向かう。梯子を下り、モーセよろしく開けた観客の中から男の子を見つけ出した。
「今朝、君は夢を見たはずだ。とても、そう、とても幸せな夢だ。教えてくれないか?」
「……滝。それから花畑……」
 それだけ聞くと僕はにっこりと微笑み、男の子の頭を撫でてやる。そして観客をぐるりと見渡し、
「僕らは滝と花畑のあるところへ向かいます!」
 そしてライトは舞台を照らす。




 晴れてかぜっぴきです。

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