2007年6月19日火曜日

ルームナンバー13

「ルームナンバー13」

 13番目の部屋には創作者が住んでいた。
 創作者は壁に描かれた無数のテレビを眺め日長一日暮らしている。テレビのめいめいが映像と音声を受像し唄い、傍らではプラスティック・ガールが創作者の世話をしていた。電話がりんりんりん鳴る。
「はい……はい……はい……失礼します」
 プラスティック・ガールは受話器を置くと創作者を振り返り、
「明後日、新しいトースターが届くそうです」
 先日、創作者とプラスティック・ガールが街へ出たときに見つけたものだった。真っ赤な方形で、二枚同時に焼けるものだ。
「わかった。
 ――ああ、そうだ。それが終わったらちょっと街へ出ようか」
 はい、と返しプラスティック・ガールは食器洗いに戻る。創作者は彼女の背中を見つめ、透明ですべすべなその手でスポンジをあわ立てる様を想う。トースターを買いに行った折、彼女が水星人の七本の爪に塗られた赤く艶やかなマニキュアを物欲しげに盗み見ていたのを創作者は思い出したのだ。
 創作者は食器の擦れ合う音を遠くに聴きつつソファーに深くもたれる。緩やかな眠りに滑り込む。窓辺近くのテレビの一つが「昔懐カシキ、ボサノヴァ」を唄っている。sweet,sweet...


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