2007年7月15日日曜日

レンタルビデオ

「レンタルビデオ」

 返却ボックスにビデオを落とすと、「ありがとうございましたー」とあどけない声でお礼を言われた。電子音にしてはくっきりし過ぎた声で、隙間から覗いてみるが暗くてよく見えない。だけど息遣いは聞こえた。僕はその場で新しいビデオを借りて帰った。何年か前のSF映画だった。
 翌日、会社帰りにビデオを返しに行く。映画はそこそこ面白かった。ビデオはかたんと音を立てて返却ボックスの底に当たり、「ありがとうございましたー」昨日と同じ声。覗いてみようかと思ったが、怖がらせるような気がして、代わりにまたビデオを借りる。昨夜借りたビデオの続編にした。
 続編の映画の内容は、前作の主人公の父親が若い頃の話だった。巧妙な伏線に関心したり、前作と絡めてあからさまに取ってつけたようなエピソードにしょんぼりしたが、全体としてはまあまあ面白かったような気がする。もっとも奥さんはきっぱりはっきり「つまらない」と言ったのだが。まあ良いか。かたん、と乾いた音を立てて落ちたビデオに、今日は手紙をつけてみた。「ありがとうございましたー」読めるかどうかわからないが、返事があったらいいなぁと思う。今日は奥さんのリクエストに応えて、純愛映画にした。奥さんの贔屓の俳優が主演を務めるものだった。
 その翌日は接待で帰宅が遅くなったため、ビデオを返したのはその更に翌日だった。かたん、と乾いた音を立ててビデオが返却ボックスに落ちる。「ありがとうございましたー」僕はボックスの返却口に近付きすぎないように気をつけて「手紙、読んでいただけましたか?」と囁いた。するとやや躊躇いがちに「わたしは字が読めないので店長に読んでもらいました。お手紙ありがとうございましたー」「また手紙を送ったらご迷惑ですか?」「いいえー」
 以来、映画の感想を付してビデオを返却するのが習慣になっている。



 次は「鳥篭」

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