2007年8月13日月曜日

突然の訪問客

「突然の訪問客」

 やァどうもこんにちは今日も暑いですね、と年齢に見合わぬ口調で男の子が言うので、どうしたものかと玄関前で思案投げ首した。つばの長い麦藁帽やオレンジのシャツから生える手足はゾッとするほど白く、きりきりぎりぎりと鳴く蝉、肌に照り返る日光、揺らめく陽炎、その中で男の子のいやにくっきりと真ん丸の黒目から目が離せない。ぼく、と呼びかけて良いものか。
「郵便局の方から歩いてきたンですけどね、いやァ暑い暑い、たまりませんな」
 うわっはっはっは。とはしかし笑わない。男の子は無機質な黒目で私を射止めつつ、お茶を一杯いただけませんかね、と微笑んだ。

 男の子はダイニングテーブルに掛け、麦茶をストローで吸っていた。傍らには麦藁帽。足は床に届かないのでぶらぶらと交互に揺れ、時折氷がカランと鳴る。午後四時の天気予報は今宵も熱帯夜であると告げた。
「や、ご馳走様でした。ながい時間お邪魔するのもアレなンでそろそろお暇させていただきますね」
 麦藁帽を鷲掴みにして床に下り、とことこと玄関へ行く。新品のスニーカーを履き、ドアを開ける間際、麦茶美味しかったですご馳走様、私の返事を待つことなくまだ早い夕暮れの中を男の子は郵便局の方へ歩いていった。
 男の子の背中が見えなくなりドアを閉めた後も、玄関に溜まった生温い空気は消えない。


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