2007年8月3日金曜日

何の音だ

「何の音だ」

 夕焼け茜空の雑踏を歩いていると周囲の景色が加速的に色褪せ、比例して人々の動きが鈍くなる。くたびれたサラリーマンが、
「会社に戻リ……マ……」
 一切が既に灰色。人も風も雲も流れない。
 彼方の一番星が瞬くことを忘れ、コトリと地表に落ち転がってくる。僕はビー玉みたいな一番星を拾い、しげしげ眺めていた。
 そのときだ。
 ギイイイイ、とぜんまいを巻くような音がしていびつな鳥が現れた。あんな捩れた体躯でどうして飛べるのだろう。鳥は頭上をゆっくりと旋回し、ギイイイイ、ひどく耳障りな声で鳴いた。
 鳥が世界のぜんまいを一つ巻くたびに、空を埋め尽くす透明な歯車やシャフトが、ぎし、と軋む。微かに揺らぐ陰影。迫る雲や周囲の人々がぴくりと胎動を繰り返し、僕もまたそうだった。手や歯に仕込まれた精緻な仕組みがかちりと噛み合う振動。駆動するナノの歯車、機械仕掛けの思考。
 ぜんまいを目一杯巻くとねじまき鳥は去った。間もなく辺りは元通りになる。
「……せん、もう一件行ってきます!」
 心なしか何もかもが溌剌としている。

 翌朝、ニュースで金星が消失したと聞いた。ビー玉みたいな金色の一番星とテレビを交互に見比べ、慌てて空に投げ返す。




 競作「何の音だ」に出したもの。○×1 ごちでした。印をつけようか迷うくらいなら付けちゃえばいいのにー。なんて。
 500文字という物理的制限があると、どうしても書く出来事の取捨選択を迫られる。僕としては起こった出来事は全部書きたいので、演出もそれに合わせる感じになるけど、やっぱり如何せん無理がある。二回に分けてしまえばいいんだろうけど、一回描かないという選択したものをもう一度描く機会があるとは限らないわけで、永遠に日の目を見ないかと思うと勿体無くて盛り込んでしまう。悪い癖。直さにゃ。

 テストも終わり晴れて夏休み。それが終わったらいよいよ就活なのだけども、どうするか根本から迷っている。さてさて。
 頭痛。

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