「たまねぎ」
「人生とはたまねぎのようなものだ」
「その心は」
「剥いても剥いても中身がない」
すぱん、ぱかんと音を立ててたまねぎが弾けていく。俺は籠からたまねぎを取り出し、大きく振り被り、投げる。時速90kmのたまねぎは金属バットで的確に打ち返され、すぱん、ぱかん、と弾け散る。振り抜いた金属バットの先から汁が滴る。
「だから、こんな糞みたいな人生はひとおもいにぶっ壊してやるのがよいのだ」
「悲しいな」
「生っ白い指で辱められ続けるより可愛いもんさ」
明け方、俺たちはフランス料理店からたまねぎを盗んだ。納品の隙を狙った。何故そんなことを、と聞かれたら俺たちはこう答えるだろう。たまねぎとラベリングされたダンボールが五箱もあったんだ、仕方ない。
俺たちはたまねぎを投げ、打つ。世界のどこかで大量のキャベツがトラクターで踏み潰されている。ごぼうでビリヤードをする奴だっていた。
すぱん
ぱかん
すぱん
ぱかん
すぱん
キン!
「あ」「あ」
八十九個目のたまねぎが空を突き抜け飛んでいく。泥のついた薄茶色がたちまちブルーに溶けて消えていく。ぶっ飛んだ奴だったな。ああ。
俺たちは涙が止まらない。たまねぎが目に沁みる。
タイトル競作「たまねぎ」 ○:6 △:6 ×:0
次点王ばんじゃい。永遠の二番手です。
今回は「正選王いけんじゃね?」と若干自画自賛気味だったのだけども、たなか作を読んで白旗ふりふり。これは仕方ない。
他にも、砂場さんに塩を投げつけてやったり、「さくらたんにイれちゃうなんてビクビクッ……悔しいッ!」なんてことがあったり。いつも以上に楽しい回でした。ごちそうさま。
解題についてはねたかんがおそろしく正確にやってくれたので、それを引用。
> くだらないなあと笑いながら、映画のワンシーンのような光景に心打たれました。金属バットでたまねぎを打つというまったく無意味な行動。無残に割れていくたまねぎの中でひとつだけ割れずに空まで飛んでいく意外性。最後のお約束のような終わらせ方といい、青春って素晴らしいね。
ナンセンスな似非ハードボイルドが今回の裏テーマだったので、それが伝わったのはよかったかなあという次第。そのテーマが良いことかどうかはさておき。
今回は選評や類似性について色々な議論があったわけだけども、一点気になることが。
今回の件を通じて、選評や投稿の敷居が高くならなければいいなあと思う。
既存の参加者はあんなふうにそれぞれ自分なりの意見を持っているわけだけども、別にみんながみんな高尚な思想を持たなければならないというわけでもない。僕なんぞそんなもの皆無だし。
みんなもっと気楽に遊べばいいのにねー。
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