「鳥篭の館」
私を買った男はその帰り道に鉛の足輪を買い、屋敷につくなり「はめろ」と言い放った。私は罪深い女なので抗えるはずもなく、ただ大人しく従うしかなかった。男は鎖を引く背中も満足げに渡り廊下を通り尖塔をのぼっていく。吹き抜けの螺旋階段は四方八方に取り付けられた窓から採光されまぶしく輝く。足の裏の感触からすると、これは真鍮なのかしら、それは素敵ね、ルビーやサファイアなんかよりずっとお上品、嬉しくて私はくすくす笑ってしまったのだけど私は罪深い女だからそんなことが許されるはずもなく、男に叱られる前に男に頬を突き出し叩かれる。それから私は俯き粛々と歩き、零さない程度に涙を浮かべ、これから始まる隷属の日々に頬をほころばせまいと必死で堪える。男が立ち止まるとそこはまだ螺旋階段の途中であった。私たちと壁の間の空間に牢が吊るされている。ずっと高い天井から吊るされる牢はゆらゆらと不規則に揺れ、男がそっと触っただけでもか細い鎖が軋むのだ。男は牢の入り口を開け放つと私を手にした鎖ごと放り込み、鎖を真鍮の手すりに巻き、そして入り口に鍵をかけた。男は小さな宝飾された銀の鍵を掲げると、自分も上を向いてあんぐりと口を空け、緩やかに飲み込んでいく。そして喉を大きく震わせ嚥下すると男は私のことを見向きもせずにまた来た道を戻っていった。残された私は鳥篭みたいな牢の中で日長一日膝を抱えてゆらゆら揺れている。上を見遣れば、霞む天井にぽつ、ぽつと鳥篭が見える。その数だけ男は鍵を飲み込んだのだろう。三月に一度、新たな牢が吊るされ間もなく螺旋階段を叩く靴の音が聞こえる。
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