2009年3月20日金曜日

世紀末、その後

「世紀末、その後」

 世紀末が終わった後の世界は静かなものだったね。恐怖の大王なんて現れやしなかった。子供心にがっかりしたもんさ。なあんだ、って。つい最近まで恐怖の大王で盛り上がっていた大人たちは、そんなものがあったことさえ忘れてしまったかのようだった。
 世紀末最後の学校からの帰り道、俺とかっちゃんは賭けをしたんだ。恐怖の大王が現れるか現れないか。「恐怖の大王なんて信じてんのかよ、くだらねえなあ」「かっちゃんはじゃあ、なんで現れないなんてわかるんだよ」「だってそりゃ……なあ」「もし現れたらどうする?」「そんなこと考えても意味ねーじゃん、出るわけないんだし」「俺だったら、大王を見に行く。学校の屋上からだったら見えるかな」すごくどきどきして、わくわくしてた。
 けれど結果はご存知の通りさ。俺は田舎のじいちゃんちに連れていかれて、大晦日は早々にダウンして、気がついたら西暦二〇〇〇年だった。恐怖の大王なんて現れやしなかった。
 それから七年、八年と時間はあっという間に流れて俺は大学生になり、世紀末のことなんてすっかり忘れていたんだ。その日俺は大学の帰り道で商店街を歩いていた。
 そして見たのさ。
 おっさんだった。中途半端に禿げた頭に無精髭によれよれのスーツ、柱時計の下で唾を吐き散らしながら叫んでた。来る、絶対に来る、恐怖の大王は絶対に来るんだ。お前らはみんな俺のことを馬鹿だって思ってるかもしれないが、俺こそお前らを嘲ってやるさ。なんでお前らなんかに、恐怖の大王が来ないなんてわかるんだ。いいか、今日ここにいるやつらはよぉーく耳の穴をかっぽじって聞けよ、恐怖の大王は来るんだ、絶対に来るんだ、世の中ぜーんぶぶっ壊すんだ。来てくれないと困るんだよぉ! そしておっさんはいきなり俺に歩み寄って肩を掴んだんだ。
 なあ、お前だってそう思うだろ、恐怖の大王さえ来れば世の中はもっと楽しくなるんだ、そうだろ?
 首を横には振れなかった。代わりに俺はおっさんを突き飛ばして逃げるように走る。背中からおっさんの声が聞こえる。


0 件のコメント:

コメントを投稿