2009年10月6日火曜日

螺旋街

「螺旋街」

 夕闇に紅い星が燦々と瞬く。夜の帳に散らした赤点の下で街は密やかに息づいている。蒸気機関の唸り声はくぐもり、男たちは山から帰り、女子供は家で主の帰宅を待っている。
 初めは一つの穴だった。何もない平地の一点に穿たれた穴は大人の拳一つ分ほどで、そこに創造主は命の種を撒いたのだった。やがて種は二つに分かれ、発芽すると瞬くうちにそれらは成長を始める。穴の中心を対称点として命は旋回しながら土を喰らい、その体を成長させていった。命は一対の男女になる。仰げば出口は光の一点となるほどに空は今は遠い。土でできた体をなで合いながら男女は井戸のような竪穴を横に広げていく。七人の子ができた。子らは乳を吸わずに土を喰らって育つ。洞穴の中心を対称点として旋回する。擂り鉢のような窪地を作る。空間はすべて彼らが食事の跡である。そのようにして窪地を作り終えると二人の男女と七人の子はの端で石になる。
 数百年の後に宗教家が信徒を連れて窪地に至る。文明が興る。碁盤の目のような街並みは年月を経る毎に街の中心を対象点として捩れる。歪む。時計回りに。街の中心には誰もたどり着けない。捩り上げられた街に縦横無尽に突き立てられた鉄の管はホルンのように渦巻き、蒸気が立ち昇って空を濁す。

��**

タイトル案より

0 件のコメント:

コメントを投稿